革靴ってTPOありますよね。

 そして,ネット上には革靴のTPOを「マナー講師」様方が解説したウェブページが数限りなくあります。

 ですから,どこを見ても書いてあることが同じ内容については,ここでは触れません。

 今回は,人生の折り返し地点を過ぎたお父さんが,成人してから2×年,日本社会で実生活を営んできた経験に即したTPOについて解説していきたいと思います。

 なお,予防線を張らせていただきますが,お父さんは下級国民(庶民)であり,上級国民の世界は知りません。また,この記事を読んで実行した結果,読者様が何らかの損害を被られたとしても,お父さんは一切の責任を負いかねます(笑。

 

 まず,冠婚葬祭です。

 マナー講師様方の解説では,「とにかく黒内羽根ストレートチップです!これが一番フォーマルです。黒外羽根プレーントゥはまあ,許容です。」というのが一致した結論ですね。それはもう,判を押したように同じです。だから,これが正しいマナーなのだろうとは思います。

 ただ,お父さんの実感としては冠婚と葬祭でだいぶ違うなーという印象です。

 というのも,成人式でも結婚式でも,結構平気で茶靴履いている人がいるんですよね,特に若い人(成人式は若い人しかおらんがな。)。

 お父さんの友達で新規に結婚される方はもういない(30代前半頃が最後だったかなぁ)ですが,部下の結婚式に呼ばれることはあります。お父さんは,ダブルの略礼装に白タイ,黒靴という昭和のおじさんスタイルで参列させていただいてますが,今どきの若い方はネイビーやグレーの背広に茶靴(当然白タイでもない…)というのが珍しくないんですよね。初めて見たときは,何考えてんだこのクソガキと思いましたが,その後似たようなのを何度も見ました。今の時代,冠婚はもう何でもありなんですよ。だから,黒靴履いて参列してる人は,まだ「わきまえてる」方なんだと思います。

 他方,葬祭の方はやはり厳粛さが違います。こちらは間違いなく黒靴で統一されていますね。葬祭の場においては,20,30万円のイタリア製であっても茶靴では立ち入れない雰囲気があります。ですが,田舎の葬祭ではあくまで靴の色だけが問題にされているのであって,内羽根ストレートチップや外羽根プレーントゥの靴じゃないと葬儀屋や坊主につまみ出されるということはないです。むしろ,某巨大掲示板で「餃子靴」と揶揄されるおじさん向けの黒スリッポンが主流なんじゃないかと思うくらいです。まあ,黒スリッポンでも金具は避けた方がいいかな,という程度でしょうか。

 

 次に,ビジネスシーンです。実は,冠婚葬祭以上に難しいのではないかと思います。

 というのも,同じ革靴を履く仕事でも,その業態は様々であって,服装規定も会社によって多種多様なので,冠婚葬祭以上にこうでなければならないという指針が示しにくいのですよね。

 例えば,お父さんが勤めている会社の例を挙げますと,本社・支社勤務で事務職のときは革靴に制限はありません。茶のフルブローグでもロングウイングでも,ローファーでも基本何でもOKです。しかし,店舗勤務で実際に接客するとなると,話が違ってきます。こちらは黒革短靴(合成底の紐靴推奨)一択です。

 お父さんが知る限り,最も革靴に厳格なのが海上自衛隊ですかね。海上自衛隊では,幹部は内羽根ストレートチップ(夏服は白,冬服は黒),曹士は季節関係なく黒外羽根プレーントゥと決まっており,他の選択肢はありません。これら以外の形式の靴を仕事で履いてはいけないですし,立場を違えて履くことも許されないのです(※作業用の靴とか,私服時の靴は違いますよ,念のため。)。

 こんな感じで,お仕事の内容でどんな靴を履くべきかというのは変わってくるので,以下では気を付けるべきポイントを挙げていこうと思います。

① 一番意識すべきは色

 靴のデザインより何より,一番意識すべきなのは革靴の色です。黒はフォーマル,茶はカジュアルというのが革靴の大原則です。これはもうパッと見て判断される話ですから,茶靴が許容されるかどうかは他の社員さんをよく観察して,大丈夫そうだったら茶靴も検討してみてください。

 また,以前の記事「靴とベルトと面接と」でも触れましたが,普段は大丈夫でも特別な時には大丈夫ではないこともありますので,茶靴OKの会社であっても時と場合はわきまえましょう

② デザインはオーソドックスなものに

 革靴のデザインは,種々多様です。特に,イタリアのブランドさんなんかは非常に前衛的なデザインが多いイメージですし,それが流行ると少し間をおいて4~5,000円くらいの合皮の安靴にまで反映されます。ですが,お仕事で履く以上,珍妙なデザインはお客様や仕事仲間に不快感を抱かせかねないので,避けた方がいいでしょうね。いわゆるビジネスシューズとして一般的な,オーソドックスなデザインにしておくに越したことはありません

 デザインの中で特に注意すべきは「ホールカット」ですね。オーソドックスなデザインに含められていることも多いですが,比較的新しいもの(昔は一枚革で製甲できる技術がなかったそうです。)であり,実はその立ち位置が曖昧なのです。パッと見た感じプレーンなデザインなので,マナー講師様方の中でも外羽根プレーントゥ(フォーマル寄り)と同列に扱う人もいれば,Uチップ・スワールトゥ(カジュアル寄り)と同列に扱う人に分かれます。営業さんなど,相手あってのお仕事をされている方は,評価の定まっていないものを履くリスクは避けた方が無難でしょう。

③ できれば紐靴を

 年配の方の中には,紐靴ではない靴は子供の履物という価値観をお持ちの方が一定数います(もう退職しているけどうちの会社にもいました。)。こういう方に,「モンクストラップは修道僧が履いていた靴が起源であり~」とか,「ダブルモンクはウインザー公エドワード8世がジョンロブにリクエストした~」,「紐靴に準ずる靴なんです!」などという靴オタの「常識」を振りかざしたって,なんの効果もないのです。仕事における服装は,あなたの個性を発揮することを主目的としているのではありません。まずはお客様や同僚を不快にさせないことが第一なので,やはり無駄なリスクは避けた方が無難です。

④ 飲み会のときはスリッポンも視野に

 武漢肺炎こと新型コロナウイルスの流行で,もう久しく飲み会をやっていませんが,我々勤労者にとっては飲み会も仕事のうちです。お父さんはもう飲み会を企画して幹事をやるような時期は過ぎ去ってしまいましたが,若いうちはこれも重要な?業務の一環であります。飲み会の終わりに,若い社員が先に店から出て,店の前で上司やお客様に「本日はお疲れさまでした~,ありがとうございました~。」などとお決まりの口上を述べ,腰を90度以上折り曲げるているのは夜の繁華街でよく見る光景ですが,いうこういうときにはスポッと脱げてサッと履けるスリッポンを活用することを検討してみましょう。普段の靴の靴紐を最大限緩めたり,踵を踏みつぶしても惜しくない安靴を用意してもいいですけどね。

 ウゼーおっさんだと思われるかもしれませんが,若輩者が上司やお客様と一緒に靴ベラをつかって悠然と靴を履き,紐を締めるとか論外です。

 

 マナー講師様方の御高説は置いといて,庶民の実生活に即したお靴のマナーってこんな感じなんじゃないかと思います。何度も言いますが,上級国民がどうなのかは知らんけどな。