>いくつもの情景が次々に頭に蘇ってくる。いくつかの断片的な、具体的な情景だ。
村上春樹はそう書いています。
「いくつも」はないのですが、小澤征爾さんとの忘れ難い唯一の情景が私にもあります。
私が眼にしたものではないのに、それこそ具体的にお顔の表情が何度も浮かんで来ます。
この話をblogに書いたはずと、探したけど見つからないので、もう一遍。
しらべが、チャアちゃん(しらべの祖母・私の母)と私の妹と三人で渋谷の映画館に行った15年か20年前の話。
ハリソンフォードの「ライズ何とか」を見終えてエレベーターに乗ると、
小澤征爾さんご一行4,5人がご一緒でアッと思った。
エレベーター降りてから一瞬躊躇したけど、思い切って三人で追いかけて行ったんですって。ちょっと離れた駐車場まで。
完璧追っかけ。
駐車場で小澤さんに追いついたけども、しらべは勿論妹までモジモジしてるので、
年の功でチャアちゃんが、
「小澤征爾さんでいらっしゃいますか?映画館でお見掛けして追いかけて参りました」ってお声掛けたんですって。
小澤さん、
「いやあ、よくわかりましたねぇ!」って笑顔で相手してくださって。
札幌にいた私はしらべからの電話でそれを聞かされて思わず、
「えっ、握手して貰わなかったの?サインは?」ってそう言ってしまったけど。
考えてみると、握手もサインもなしに、笑顔で会話交すって凄くないですか?
まるでご近所の知ってる方に出先で出会ったみたいに!
小澤征爾さんは、世界的権威でありながら偉ぶらないいつも自然体なお人柄でらっしゃる。世界中でこうした出会いをお持ちになられたかも。
小澤征爾さんのような方は、今の世の中に欠かせない存在です。
最近、NHKで「小澤征爾さんの御兄弟がVTR出演するドキュメンタリー」を見ました。
御尊父は歯科医で満州に渡られ国交に努められた。
中国との関わりに、村上春樹と共通する思いの深さがあって、それが親交深める契機になったのではと思ったことでした。
しかし、お人柄からそうした深刻な事象を超えて、率直親密に交流されたのでしょうね。
謹んで小澤征爾さんのご冥福をお祈りいたします。