家出少女を拾う
♀へ性転換実話はじめての方はこちら前の話はこちら閑話はこちら性転換して、わかったからだのことはこちら彼は、27歳。わたしより10歳年上だった。つとめさきは、建築会社。スーツ、ではなくて。朝。ピーナッツバターをぬったパンをかじりながら、作業服のすがたで、家をでる。はじめ、この家の扉のうちがわから、毎朝。そうした作業服の彼を見送ることになろうとはこのときはもちろん、あるいは振り返るいまだって、しんじられないことだとおもう。深夜。ネットゲームのなかで、わたしたちは、おたがいの生活拠点が、奇遇にも3駅ほどの距離であることを話していて、知った。ネットゲームの世界は、あるいは日本のみならず、世界中どこにいたって参加することができる。参加をすれば、あるいは世界のどこにいたって、同じ世界、同じゲームのなかの時間を、共有することができる。例えるのならばそれこそ、星の数ほどある、えにし。偶然かつ必然的なえにしの糸が彼とわたしとを結んでいたのかもしれない。まずは互いに顔写真を送りあった。わたしは当時、黒髪の地毛はまだのびきっておらず、あごにかかるくらいのショートボブだったけれど。送った写真には、金髪ロングのウィッグをつけて、目にはつけまつげを2枚かさねてラメに飛んでいる、派手なわたしのすがたがあった。そしてもはや野犬のそれのように周囲に睨みをきかせているのだから。驚いた。どんな子かとおもった、といわれてしまうのも致し方ないことだったろう。わたしは普段から、そのようにとにかくわかりやすい風貌だったし、もちろんそれが当時の自分のアイデンティティでもあったわけだが、強く着飾っていないと、こころの弱さが露呈してしまう。そのような精神的なからくりがあったのかもしれない、ともおもう。けれども一方で、彼が驚いたのは、それだけだったらしいことにわたしは逆に驚いてしまった。だって、送った写真のあとにはわたしはからだが男であると書いたからだ。へえ。そうなんだ。写真じゃ、全然わからないね。あたりまえじゃん。わからないように撮ってあるもん。びっくりしたでしょ。会うの嫌でしょ。なんで?じゃ、時間通りに駅で待ってる。変なひと――、とおもった。けれど、そっか。どうせまた、この変なわたしのからだが目当てなんだ、と我に返った。――お金くれるのかな。なけなしの小銭をつかって、電車をおりたわたしは、駅でまつひとりの男性のすがたを目にする。彼は、ヒールをならしながら階段をおりてくるわたしに気がつくと駆け寄ってきて。荷物、持とうか? とわたしの手をとり、いうのであった。閑話はこちら性転換して、わかったからだのことはこちら♀へ性転換実話はじめての方はこちら次の話はこちら▼ ぽちっとして応援してくれたらうれしくて甘栗ポンッなるよ人気ブログランキング