平成5年か6年の2月の寒い日だった。
体調を崩していた父が喪服にお気に入りのマフラーをし
ヨロヨロしながら出かけようとしていた。
車で送ってあげようかと聞くと
「今日はお父さん一人で行く」という。
「何処行くの」と言う私の問いに
「あの先生はお父さんにはいつも自分から元気ですかと声を掛けてくれ
苦しい時も励ましてくれた。だから今日はどうしても言ってお礼を言わなくては」
あの先生とは服部良一先生の事
この日は先生のご葬儀だった。
帰宅するまで心配で実家にいた私。
早めの午後に帰宅した父。
その後机に向かいじっと何かを考えていて声をかけるのさえためらったのを覚えている。
この日の事は主宰していた同人誌編集後記にこう書かれていた。
「生前親しくさせて頂いてた服部良一先生が亡くなられた。感無量である」
そして同年代で活躍された人々が皆故人になてしまい寂しさが増す今日この頃とも。
当時78才だった父。透析をしていた事もあり入退院を繰り返しながらも
創作意欲は衰えず鉛筆が握れなくなるまで作品を書き続けた。
そして最後に読み終えた本それは服部良一先生の「僕の音楽人生」だった。
父は服部先生の優しい温かなお人柄に尊敬の念を持っていたのだと知った。
その父も服部先生と同じ85歳でこの世を去った。服部先生、お父さん安らかに。