昭和のキャバレー | 酒井ミキオオフィシャルブログ「raintree」Powered by Ameba

昭和のキャバレー

 ネットニュースで「消えゆく大型キャバレー」という記事を読んだ。ススキノで1971年から営業するグランドキャバレー「札幌クラブハイツ」が今月末で閉店すると。ワンフロア300坪以上と全国最大規模だと。そうですか、札幌にそんな店がまだあったのか。

 その記事を読んだとき、横浜のキャバレーで何度かピアノを弾いた22年前を思い出した。確か何度かブログにも書いたことがあったね。内容が重複してごめん。

 キャバレーという響きには昭和を感じる。映画やドラマの中で見た大人の世界。男と女の恋物語。まさに石原裕次郎が飲んでいるというイメージ。もちろん実際にキャバレーで遊んだことはない。

 時は平成2年、まだ学生だった僕は同級生(とはいえ3つ上)のトラ(代わりという意味)で横浜駅近くの大型キャバレーで何度かピアノを弾いた。最年長のドラムがリーダー、そこにベースやギター、管楽器隊の中堅や若手が入り混じる箱バン(専属バンド)でのピアニストだ。

 ドリフターズの逸話でもあるように、そういうバンドはリーダーが圧倒的支配権を持っている。店側との交渉、スケジュール、そして不条理なギャラ分配。楽屋ではリーダーの文句が飛び交っていた。もちろんリーダーがいない時間でね。わいありやすく言うとリーダーは高級車でブイブイ、他は電車という地主と小作人のような関係らしい。

 「ヤノピ(ピアノのこと)のユーはいくつ?」と言われ、一瞬固まった記憶アリ。今でこそジャニーズ逸話で有名や「ユー」も、当時は市民権を得ていませんでした。ディープな昭和からタイムスリップしてきたおじさんに見えたなぁ。

 基本は一晩で3ステージ。1と3ステージ目はジャズ。2ステージ目は演歌やセクシーダンスショウなどのバックバンドと化す。もちろんリハなんて無い。ぶっつけ本番で演奏。本来、それがミュージシャンなのです。それが基本的に出来ないと成り立たない業種なのです。

 で、20歳の僕は・・・間違いまくり(笑)! ジャズは知らないわセクシーショウではその女性(中年以上だな、あれは)をチラチラ見てしまうわ・・・基本がなっとらんっぅうう~!!

 それぞれの演奏場所にはズラッと譜面が並んだり重なったりしていて、「A-3」等の記号が付いている。で、演奏前にリーダーが「C-5!」とか叫ぶとメンバーがガサゴソと急いで譜面を探して用意する。間髪入れずリーダーのカウントが入って演奏。

 もうついて行くのに必死です・・・というかついて行けてないんだけど(笑)。で、なんだかわからないうちに演奏が終了し楽屋へ。そしてリーダーの悪口大会が始まる。ストライキ起こそう!って話も出てたな。本当にやったんだろか?

 僕の人生で昭和30~40年代の空気をリアルに感じたのはあの時だけではなかろうか? ちょっとカビ臭く、ちょっとジトっと湿ったあの重い空気感、楽屋や控え室、裏廊下を行ったり来たりするミュージシャンやボーイやホステス、内装、照明、音楽、酒、会話・・・全てが映画やドラマの中の出来事みたいだった。どこかに石原裕次郎がいるんじゃなかろか?と。

 3ステージが終了し、リーダーにピンハネされた(!?)ギャラの8000円を握り締め裏口から出ると、そこには平成の世があった。今の今まで昭和時代にいた自分が一気に平成2年の夜の雑踏にいる。目の前には岡田屋モアーズ。不思議な感覚です。とはいえ平成2年もかなり昔になっちゃったけどね。

 3年ほど前かな? あのキャバレーが入っていたビルに行ったのだが、様々な飲食店が入っているビルに変貌していた。たまたま入った店の中を見渡すと、何やら当時の面影がある。作りが妙にレトロ・・・。

 店長(?)に「ここ、昔キャバレーでしたよね?」と聞くと、「そうです!よくご存知で!」と。そうか、あの辺にステージがあり、この辺はダンスフロアか客席だったなぁ。吹き抜けで天井がやたら高かったし上の方にも客席があったと思うので、きっと2~3フロアは使ってたんだろうな・・・なんてことを思ったりした。

 昭和は色々あるけれど、夜の昭和を体感出来て良かったよ。ある意味、戦後の復興から高度経済成長の一つの象徴。あの時代の華やかさの残り香を一瞬吸うことが出来たんだ。今となっては良き思い出です。

 そういえばあれからずいぶん経ったけど、結局ジャズという道は通っていない。なんとなくジャズっぽいことは出来るとは思うが、あくまでも「なんとなく」の域を出ていない。しかしポップソングとは、全てのジャンルの「なんとなく」を入れ込むことができる究極のミクスチャー音楽なのです。懐が大きいのですよ~!

 ちなみにキャバクラとキャバレーは全然違います。そんなこと言うとデヴィ夫人が怒ります。また、一般的にいうキャバクラと札幌でいうキャバクラとでは意味合いが違ってきます。詳しくは札幌人に聞いてください(笑)。ここには書きません。ではまた明日以降に・・・。