分身様 | 酒井ミキオオフィシャルブログ「raintree」Powered by Ameba

分身様

 ふと思い出した。中一の時、クラスで分身様なるものが流行った。コックリさんみたいなもんだね。五十音を書いた紙の上で行われるアレです。まあ青春を通過する時の一儀式だね。放課後の教室で行われることが多かったかな。

 当時、確か超能力ブームと同じようにオカルトブームってのがあった。テレビでもそういう特集番組が多く組まれていた。「うしろの百太郎」が流行ったのも同時期だったかな。

 クラスメートに分身様が得意な子がいた。その子にかかると鉛筆があれよあれよと動きだし、様々な分身様と通信が出来た・・・というかそういうように見えた。中学生です、目の前で不可思議なことが起こるとすぐ信じてしまいます。

 分身様、分身様、何とか何とか・・・という文句から始まる。そして分身様登場と同時に鉛筆が動き出す。放課後の教室はオカルトに興味を持つ中学生数名。おのずと緊張感ある空気に変わる。

 分身様、○○の好きな人はダレですか?と質問。すると鉛筆がゆっくり動き、同じクラスメートの名前が示される。おお!やっぱり○○は△△が好きなんだ~!と一盛り上がり。そうなると次から次へと質問攻め。分身様もお困りだったでしょう(笑)。

 こういうものは伝播します。最初は一つのグループでやっていたものが、気づけば数グループ。教室のあちこちで「おお」だの「きゃー」だの感嘆や恐怖の声。しまいにゃ朝の登校時間帯からやり始める始末。一体何人の分身様が降臨なさっていたのでしょうか。ハードワークです(笑)。

 しかしこれが毎日続くと人間慣れます。あまり驚かなくなったし怖くもなくなった。質問のネタも切れていく。聞くことがなくなるんだよね、中学生だもん。

 教室でのそういうブームも下火になりかけた頃、ある事が起こります。分身様の凶暴化です。例の分身様が得意な子だけに起こった現象なのだが、呼び出した時から口調が荒い。鉛筆が紙を荒々しくはみ出る等々。

 例えば「あなた」が「お前」に変わる。「死ぬ」だの「殺す」だの悪意ある表現が多くなる。ゆっくり丁寧に動いていた鉛筆が速く雑に動き、鉛筆の芯を折る・・・。お疲れだったのでしょうか、分身様。もしかして人気下降の焦りからくる情緒不安定?

 最後は机から飛び出して教室中を暴れまくり、廊下にまで出て大暴走です。リアルに金八先生の出番です! 加藤!松浦! お前らは俺の生徒だ!分身様は腐ったミカンじゃねぇ!! ってな感じです。

 そのブームの終焉は思い出せない。確か担任から分身様禁止令が発効されたような気がする。気づけば何事もなかったように日常が流れ、あっという間に中学も卒業。分身様は忘れ去られた存在へ。

 大人になり、あのブームを考える。やはりつのだじろうさんの存在なくしては起こり得なかったでしょうな。オカルト漫画の効果は絶大だった。そしてそれに乗ったメディアの洪水。影響受けやすい思春期の子供はハマるべくしてハマった。

 ではなぜ鉛筆が動いたのか?・・・簡単です、持っていた子が動かしたんです。その子の心理が顕れたのでしょう。思春期の繊細かつ微妙な心が成し得た現象。意識と無意識の狭間に揺れる乙女心。一連の分身様の行動を見れば一目瞭然。

 今の子供は知っているのかな? このデジタル情報時代、学校でそういうものが流行ることってあるんだろか? 僕らの頃は、やはり情報が無かった。メディアは全て正しい、どこからともなく入ってくる噂もやっぱり正しい・・・基本的に全て信じる中学生だったかも。その情報の裏に蠢くものあることなんて知らなかったし。

 第三者的、評論家的に言うと、この時期の子供らが後のカルト宗教や悪徳マルチ商法ブームを支えた。オウムの面々もそう。幸せですか~!のアレもそう。70~80年代の超能力、オカルトブームの間違った子孫が90年代の様々な事件を起こしてしまった。

 ブームは経済活動を作る。税金も増える。しかし必ず膿が出る。これは避けて通れない道なのでしょう。そのピンスポットな落とし穴に嵌らぬよう、自分というものをしっかり持って生きていたいですね。

 めずらしくオカルトなことを書きました。まあ夏ということで。次回のオカルト話題は来月あたりに(笑)!ではまた明日以降に!