これまでに数々の旅について書かれた本を上梓されている、旅行作家・下川裕治さんの「シニアになって、ひとり旅」のご紹介です。
この本は4月上旬に出版されたものでありますが、その頃(すでに手元にはあった)から今までバタバタした日々が続き、なかなかじっくり読む時間が取れませんでした。
ようやく読み終える事が出来た今、思うことは「早く読めば良かった」の一言です。
下川裕治さんの文は少し重めであり(かの「シックスサマナ」に下川さんが寄稿された際には紹介文に『師走の曇り空もびっくりのどんよりしたタッチでお届け』と書かれておりました…)、「旅って楽し〜!」「旅先でこんな美味しいものを食べたヨ」的なものでは決してないのですが、私はそんな下川さんが書かれた文章が初めて読んだ時から大好きなのです。
今作品はコロナ禍で海外の旅へ出る事を著しく制限されていた頃からコロナ禍後である現在までに行かれた国内の旅について書かれています。
その旅の内容は、今も営業しているデパートの大食堂、小湊鐵道のキハ車両、苫小牧から仙台へのフェリーに乗る…などなど、かつて下川さんが経験されて来た事を訪ねる旅であったり、東京在住の下川さんがコロナ禍により県を跨いでの移動すら憚られる時期に頻繁に出かけられたという高尾山での登山、かつて水路・川であった場所を地下化したり覆いをしたりして見えなくなっている暗渠を歩く、都内でのバス旅…という身近な旅、そして尾崎放哉の足跡を求めて出かけた小豆島への旅について。
旅行作家という、旅を職業にされている下川さんにとってコロナ禍という時期は何ともやるせない時期であったと思います。
それでも下川さんはコロナ禍という暗黒期に様々な制約を乗り越えて海外へも飛び出されました。
しかし、それらの旅は出版社から依頼された「仕事として行く旅」ではありません。
当時やたら「不要不急」という言葉が使われ、私たちの行動が「私たち自身の健康を守る」という大義のために大幅に制限されていましたが、下川さんのように「生きるための職業=旅」という場合はどうなるのでしょう?
そんな制限だらけの海外旅の合間を縫って行かれていたのが今作に登場するような国内旅なのでありました。
タイトルの「シニアになって、ひとり旅」についても解説してくださっています。
ヒンドゥー教の教えでは、人生を4つのステージに分けられているそうです。
・学生期(生まれてから大人になるために様々な事を学んで行く時期)
・家住期(働いて家庭を持ち、育児をする時期)
・林住期(仕事や家族と離れ、林に入って自分に向かい合う時期)
・遊行期(林の中の住処からも離れ、放浪をしながら死に向かう時期)
…という事で、下川さん曰く「シニア世代=林住期」なのではないか、という事を「はじめに」で綴られています。
それゆえ、そのシニア期にひとりで旅をするという事は(下川さんにとって)ヒンドゥー教の教えとぴったり来るのではないか、とも…。
私はまだシニアと呼ばれる世代ではないけれど、ひとりで旅をする時間は自分と向き合い続ける時間である事は実感しています。
旅は大好きだけれど、そんなひとり旅の時間は実は決して楽しい事ばかりではありません。
しかし、それでもやっぱり自分が自分でいられる貴重な時間が「ひとり旅」。
これから先の旅を全て1人でするわけではないでしょうが、私にとっても必要な期間である事は確かです。
↑コロナ禍中は私も旅を求めて大阪市内まで繰り出していたものでした。
今は海外からの旅行客も戻り、人がめちゃくちゃ増えているので逆に行きにくくなってしまった道頓堀。
いや、世界の国を行き来できる事はありがたい事です。






