風変わりなタイトルである「9月9日9時9分」。

「9」という数字がタイで「進む=ガーオ」と言う言葉と同じ音を持つ、という事でとても縁起の良い数だと言われているのだそうです。


↑という事で、タイでは車のナンバーも「9999」が最も高額であったり、何かのセレモニーやお店や施設のオープンパーティーも「9月9日9時9分」に行われるのだとか。


この小説にはそんな「9」についてや何曜日生まれである事が重要視されるという事やタイの風習、タイ人の性格やタイでの生活についてがバンコクで暮らしていたという著者・一木けいさんによって美しく描写されています。


↑ちなみに!

大好きなタイのイケメン俳優のKhaoくんの名前も「Khao=9」。

何と9月9日の9時に分娩室9番で生まれたからなのだとか。

生まれた時からラッキーボーイ!


私がこの本を手に取ろうと思ったきっかけも、本の概要を説明する欄に「バンコクに住んでいた著者が描くタイの描写は圧巻!」という一文があったからでした。


現在は高校生である主人公・漣が父親の赴任によって暮らしていたバンコクを懐かしく思う場面、その後母と再び懐かしいバンコクを旅行として訪れる場面は初めてのバンコク旅行を控えている私にとって、さらに旅の期待を盛り上げてくれました!本当に素晴らしいです。


しかし、この物語の内容はただただ「素晴らしい」「きらきらした青春」と感じられるようなものではなく、まだ幼さが残る高校一年生の漣にとってものすごくヘビィなものでありました。


優しい両親と少し歳が離れた姉に(私から見れば)過保護とも思えるほど大切にされている漣。

しかし、この家族にはどうしても触れてはならない「腫れ物」があり、その腫れ物とは姉・まどかの過去の結婚生活について、だったのです。


何があったから姉は妹を心配し過ぎているのか?


どうして電車に乗れなくなってしまったのか?


両親はなぜあれほど姉に気を遣っていて、妹である漣も姉の機嫌を損ねないように細心の注意を払っているのか?


読み進めて行くうちに姉が経験した壮絶な結婚生活が明らかになっていくのですが、同時に漣が初めて経験する恋が姉の過去に大きく絡んでいる事が発覚。


10代の2人の恋は純粋で、ただただお互いを恋しく大切に思い合っている…という事に中年の私は感動すら憶えたのですが、結局その事実によって2人の幸せな恋は「隠さねばならないもの」となってしまいます…。


姉の結婚生活は前夫のDV(身体的な暴力だけではなく、言葉の暴力も)が原因で破綻してしまいましたが、当然のことながら未だに傷は癒えず(本人だけではなく家族も)、読んでいる私もそのどうしようもない身体や心の傷に胸が疼きました。


そんな姉や家族の傷のために漣は行動を起こしますが、その道は決して平坦ではありません。

しかし、その行動はいつしか…という所で物語は幕を下ろします。


*本書(文庫版)の解説は高知東生さんが書かれているのですが、DVではなく薬物依存症のリハビリを受けてらっしゃった高知さんの経験談も興味深いものでありました。



内容に関してはご一読頂ければ…と心から思いますが(とても素晴らしい作品です)、私にとってある意味最も衝撃的だったのは、漣が回想するタイの4月についてでした。


何と「足元から温泉が噴き出てるかと思うぐらい暑い」と記されているではないですか!


だからタイの子供たちは3〜4月(あるいは5月まで)に長い休みがあり(日本の夏休み的な?)、その休みの間は昼間は屋内にいて夜になったら夜市に連れて行ってもらうのだそうです(そこは台湾も同じかな)。


あぁ、やはり最も暑い時期に旅行を計画してしまったんだなぁ…。


*初めての台湾旅も最も暑い時期でしたけどね…