Vol.147 『まいたけ君としいたけ君の攻防』

 

冷蔵庫の野菜室のなかには、さまざまな野菜が入っていることでしょう。

畑野家の野菜室もそうでした。

奥さんの、畑野みどりさんは、野菜室の在庫を整えるのに、

いのちをかけているといっていいくらいです。

 

そのなかでも一番大事にし、欠かさないようにするのが、

まいたけ君です。

まいたけ君が抗がん作用があると、本で読んでからは、

まいたけ君は野菜室で姿をみないことはないほどです。

 

スープに、チャーハンに、煮物に、焼き物に、

まいたけ君は大働きです。

そんなまいたけ君は、いつしかプライドが芽生え、

畑野家の健康はぼくが守る!と、

日夜、みどりさんに存在をアピールして、

料理に使ってもらおうと頑張りました。

 

ところでみどりさんの旦那さんは、畑野耕助さんといいます。

耕助さんは、みどりさんに負けず劣らず、料理が好きでした。

毎日のお弁当や、日曜日のランチづくりは耕助さんが担当します。

 

もともと、前の会社で新潟担当だったころ、

ドライブインなどでまいたけの新鮮なのを買って、

料理するようになったのが、

畑野家にまいたけという食文化が登場したきっかけでした。

 

ところが最近、畑野家の冷蔵庫の野菜室に異変が起きました。

いままでおよそ買うことのなかったしいたけ君が、

野菜室に顔を出すようになったのです。

 

たまたまスーパーで買ったしいたけ君に、

耕助さんが惚れ込みました。

おいしい出汁はでるし、味もよく出て、

チャーハンづくりの得意な耕助さんは、

チャーハンにはしいたけ君!と決めたようです。

 

みどりさんはそれほどではなかったものの、

「しいたけを切らさないでおいて」

という耕助さんの言葉のままに、

しいたけ君とまいたけ君を、スーパーで必ず買うようになりました。

 

さて、野菜室では攻防が起きていました。

「おい、しいたけ。お前、図に乗るんじゃないぞ。

いくら使ってもらえるからと言って、

長年重用されてきたぼくにはかなうまい。

ま、そのうち飽きられるだろうがな」

しいたけ君は怒りました。

「まいたけ先輩、それはひどいです。

ぼくは図に乗ってなんかいませんよ。

畑野家のみなさんに健康になってほしくて、

ぼくなりに一生懸命なんです」

まいたけ君は含み笑いをしました。

「それならば、ショッキングなことを教えてやろう。

しいたけには発がん性物質が入っているんだよ。

それをきいたら、みどりさんも耕助さんもどう思うかな」

「え・・・・・」

しいたけ君は絶句しました。

まいたけ君は決定打を繰り出しました。

「それに比べて、まいたけは最強の抗がん剤になる、っていわれているんだ。

どうだ、わかったか」

 

しいたけ君は泣き出しました。

野菜室の隅で、しくしく、しくしく泣いています。

 

耕助さんが気づきました。

「しいたけ君、どうした?」

「ぼく、発がん性物質が含まれているんですってね。

もう、このうちを出ます。

いままでかわいがってくださって、ありがとうございました」

耕助さんは慌てて止めました。

「おおい、しいたけ君、織り込み済みだよ。

いっぺんにたくさん食べず、少しずつ、

ほかのお野菜ともいっしょに食べればいいんだよ。

ぼくにまかせとけ!」

 

しいたけ君は号泣しました。

「ありがとうございますう、まいたけさんとも仲良くしていれば、

このうちの大事なご主人や奥さんに、

害を及ぼさないですか?」

「あたりまえさ。さあ、チャーハンをつくるから、働いておくれ」

耕助さんは頼もしく言いました。

 

そして、しいたけ君、まいたけ君のほかに、

ニンジンさんやピーマン君、卵さん、などとともに、

おいしそうなチャーハンに生まれ変わったのです。

 

チャーハンを一口たべたみどりさんは、いつにもまして美味しいのにびっくりしました。

「耕助さん、どうしてこんなにおいしいの?」

「野菜たちの団結さ。さ、熱いうちに食べて食べて」

 

こうして、まいたけ君もしいたけ君の存在をゆるし、

手を取り合って、畑野家の健康を盛り立てていこう、と決心し、

畑野家からは、いつも美味しいにおいが漂っていました。