Vol.129 『復讐する便座』

ちょっと品のないおはなしですが、お許しください。


さわ子さんの家は、ふるい建物でした。

トイレも、ふつうの洋式トイレです。


でも、一年まえ、ウォッシュレットのトイレに替えました。

便座もそれは温かく、快適です。


ところで、さわ子さんはお掃除があまり好きではなかったのです。

最初の頃こそ、ウォッシュレットの便座に感動して、

ピカピカにしていましたが、

時が経つに連れ、だんだんおざなりになりました。


トイレとは、キレイに使ってもらえば、喜ぶものです。 

さわ子さんのトイレは、

さわ子さんがあまり掃除をしないので、

だんだんさわ子さんのお世話をするのが嫌になりました。

 

ある日、便座は決心しました。

もうさわ子さんを快適にしてあげるのは、 

よそう!と決めたのです。


ある日、さわ子さんがトイレに入ると、

温かいはずの便座が、

飛び上がるほど冷たいのです。

季節も冬でしたのでね。


「故障かしら?」

さわ子さんはそう呟きました。

次に便座にすわると、

今度は火傷しそうに熱いのです。 

「アチチチチチ!」

さわ子さんはトイレから飛び出ました。 


すぐに業者を呼んで、直そうとしましたが、

故障ではないと言います。


トイレに行かないわけにはいきませんから、

さわ子さんは恐る恐る便座にすわりました。


すると、ウォッシュレットのトイレですからお湯が出ますが、

今度は噴水のようです。


次に座ったときには、震え上がるほどの冷水が出ました。


そして、さわ子さんは思い至りました。

(トイレをキレイにしていないから、便座が怒ったのかしら)

と。


それからさわ子さんは、必死でトイレ掃除をしました。

便器のふちも、素手でスポンジを握り、

拭き上げます。

水受けや蛇口も、洗剤を使ってピカピカにしました。


最後に床をきれいに拭いて、

トイレ用タオルを新しいものに替えました。

スリッパも新調しました。


こうして掃除する最中、 

さわ子さんは、

「ごめんね、ごめんね、今まで汚くしててごめんね」

と、呟いていました。


便座は、にんげんには分かりませんが、

ニッコリしました。


掃除ののち、おっかなびっくりトイレに入ったさわ子さんは、

便座が程よく温かいのに、

感動しました。

ウォッシュレットも使いましたが、

もう噴水のようではありません。


「ありがとうね」

さわ子さんは思わず言いました。


さわ子さんは、それからトイレをこまめに掃除して、

タオルを洒落た柄のものにして、

見違えるような空間にしました。

旦那さんも、

「お、トイレがきれいだと気持ちがいいね」

と、大喜びです。


さわ子さんは人が変わったように、

トイレをいかに快適な空間にするか研究し、

のちに、トイレアドバイザーとして、

一目置かれるようになったんですって!