サルのガン太は、村一番の力自慢でした。
いたって気はよく、優しく、
よくおばあさんサルの荷物を持ってあげたりしました。
ガン太は立派な体格のサルで、
誰よりも背が高く、
誰よりもガッシリとしていました。
山深い村は、天候の変化をもろに受けたりします。
ここのところの長雨は、
ときに豪雨になり、
ときに雷雨をもたらし、
村のサルたちを困らせていました。
この数日、雨は止むことを知りません。
その降り方は、豪雨を超えていました。
ガン太は、山の上を睨んでいました。
コロコロ。コロコロ。
石つぶてが時おり落ちて来ました。
ガン太は、その石つぶてがなんの予兆かしっていました。
土砂崩れです。
山津波ともいう、それを、
ガン太はたいへんに警戒しています。
なぜなら、むかしあった山津波で、
ガン太の両親は死んだからです。
それから、ガン太は一生懸命生きてきました。
でも、いま山津波がきたら、
ふもとのサルの村は全滅です。
がらがら。がらがら。
大きな石が落ちて来るようになりました。
ついで、ごおーっという山鳴り。
ガン太は、村のサルたち皆に聞こえる、
よく通る太い声で、
「おおーい、みんな逃げるんだ!村の避難所へ行け!
荷物なんかあとあと。
早く行けーっ!」
と、叫びました。
ふと足元を見ると、
赤ちゃんネコを、
お母さんネコが一匹ずつ、
首をくわえて避難させています。
でも、赤ちゃんは5匹いて、
お母さんネコは必死のあまり、
疲れてしまいました。
最後の一匹を避難させようと赤ちゃんネコをくわえたとき。
ドロンドロンとものすごい音を立てて、
山の上から、巨岩が落ちてきたのです。
お母さんネコと赤ちゃんネコが、下敷きになってしまう!
そのとき、サルのガン太は、
満身のちからを込めて、
巨岩を受け止めたのです。
ガン太は武者震いしました。
そして、お母さんネコに、
「大丈夫だから、早く逃げなさい」と、
優しく言いました。
お母さんネコは、
「ありがとうございます、ありがとうございます」
と、なんどもお辞儀をして、
走って行きました。
ネコは助かりましたが、
村の麓には、サルたちの家があり、
巨岩をガン太が放り出したら、
家はめちゃくちゃになってしまいます。
巨岩を支えたガン太の腕が、
ブルブル震えだしました。
「うぉー!」
ガン太は苦しさのあまり咆哮しました。
しかし、ガン太はまだ巨岩を離そうとしません。
そしてとうとう、巨岩はガン太を押し潰してしまいました。
ガン太の血が、岩の下からにじみ出ています。
ガン太は人身御供になったのでしょうか?
雨は止み、山津波もどうやら収まったようです。
一夜開けて、避難所からやってきた、
おばあさんザルやおじいさんザルは、
巨岩の血のあとを見て、
ひれ伏しました。
「ガン太様…」「ガン太様…」
みな、口々に呟いては、
巨岩に額づきます。
この日の災害は、サルの村の歴史に、
書き加えられました。
そして、サルたちは、
巨岩に鳥居をたて、注連縄を張り、
「ガン太神社」と記し、
長くガン太の功績を、
伝え続けたのでした。
ここをお参りするサルは、
引きも切らなかったと言います。