Vol.80 『傷んだピーマン』 | 猫又小判日記

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石井綾乃が綴るブログエッセイ。精力的に短歌を詠む。第一歌集「風招ぎ」、次いで第二歌集「猛禽譚」を上梓した。また「文学さろん 美し言の葉」を主宰。筋金入りの猫好きである。最近はプール通いで健康維持を図る。そんなつれづれを、日々思うままに書いていきたい。

Vol.80 『傷んだピーマン』

ピーマン君は、

他の仲間と一緒に袋に入って、

ママがお料理してくれるのを

夢みていました。


ピーマン君は兄さんのピーマンに聞きます。


「ねえ、兄さん。僕たちどんなお料理にしてもらえるかな?」

兄さんピーマンは答えます。

「そうだなあ。まあ僕らは野菜炒めなんかには欠かせないからな」

弟ピーマンはうたうように言いました。

「もしかして、ピーマン料理の王道、ピーマンの肉詰めかなぁ」


みんな、てんでに思うことを言いあいます。


スーパーマーケットで、ママがピーマンを買ってから、

2日が経ちました。

その週はひどく暑い日が続き、

気温が40℃を越す地域も、

あったと聞きます。


たとえ冷蔵庫のなかにいても、

外気温の暑さは伝わってきます。


そのうち、兄さんピーマンの具合が悪くなってきました。

ピーマン君は心配しました。

「兄さん、大丈夫?」

弟ピーマンも心配しています。


ピーマン君は兄さんを元気づけようと、

一生懸命励ましました。

「兄さん、ママがきっとピーマンの肉詰めにしてくれるよ。

だから頑張って!」


でも、兄さんピーマンはもう限界のようです。

からだから汁をこぼして、

腐っていくのです。

「兄さん!」ピーマン君。

「兄さあん…」泣いているのは弟ピーマンです。


すると、ママがキッチンにやってきました。

「パパは今日、ビールを飲むから、

久しぶりにピーマンの肉詰めを作ってあげよう」

そう言うと、野菜室を開けました。


「ピーマンはっ、と…。

あら?ひとつ傷んじゃってるわ。

ごめんね、ピーマンさん。

他のピーマンたちに、

立派な肉詰めになってもらうからね」


ママはそう言うと、兄さんピーマンにごめんなさいしました。

そしてママは、料理の腕を奮って、

美味しそうなピーマンの肉詰めを作ったのです。


テーブルで先にビールを飲んでいた旦那さんは、

ピーマンの肉詰めを見ると、

目を輝かせました。

「ありがとう、ママ!食べたかったんだよ。

ビールが進むなあ」


こうしてピーマン君たちは、王道の肉詰めにしてもらい、

先に逝った兄さんの分まで、

誇らしく昇天していきました。