Vol.6   『華珠桜(かむお)四姉妹』

 

「華珠桜食品」という、お漬物のお店がありました。

そこには季節の野菜を漬けたお漬物や、

定番のお漬物が売られていました。

 

いつからか、珠夫くんと華子さん夫婦は、

華珠桜食品のお漬物が大好きになっていて、

インターネットで何度も取り寄せていました。

 

夫婦が取り寄せていたお漬物は、この4種類です。

長姉の「生真面目しょうが」

次女の「あらくれ大根」

三女の「じょっぱりひじき」

末妹の「泣き虫しいたけ」

 

商品に本当にこんな名前がついていたわけではありません。

これはお漬物同士の間で交わされていた、ニックネームなのでした。

珠夫くんと華子さんは、夫婦ですが当然好みも違います。

それでも、二人とも最も大好きなお漬物がありました。

末妹の泣き虫しいたけです。

注文して届くやいなや、

二人は争うようにして、ごはんに泣き虫しいたけをのせると、

むさぼり食べました。

こうしてほかの姉妹たちをおいて、

泣き虫しいたけはいつも真っ先になくなってしまうのでした。

そこで、珠夫さん華子さん夫婦は、

泣き虫しいたけをいつもより一つ多く、

二つ取り寄せることにしました。

 

怒ったのは次女のあらくれ大根と、三女のじょっぱりひじきです。

ふたりは台所でこそこそ囁きました。

あらくれ(なによ、しいたけちゃんばっかり!)

じょっぱり(そうよ、二つも取ってもらって!)

あらくれ(あのこ、生意気なのよ)

じょっぱり(そうだわ、はちぶにしてやりましょうよ)

それを聞きつけた長姉、生真面目しょうがが言いました。

生真面目(これこれ、ふたりともおよしなさい。

そのうちあたしたちももっと取ってもらえるわよ)

あらくれとじょっぱり(はあい)

ふたりとも黙りました。

 

でも。そのうち華子さんは、生真面目しょうがに飽きてしまいました。

珠夫くんは生真面目しょうががあいかわらず好きで、

卵かけごはんやお肉料理のうえにかけては、

せっせと食べていました。

けれど華子さんは、あらくれ大根やじょっぱりひじきにも、

あまり手が出なくなっていました。

それでも、泣き虫しいたけだけは食べられたのです。

 

さすがに生真面目しょうがは怒りました。

(あんまりじゃないの。泣き虫しいたけのやつ。

華子さんにもあたしたちをもっと食べてもらえるよう、

訴えましょう!)

次女あらくれ大根(そうだ、そうだー!

三女じょっぱりひじき(そうだ、そうだー!)

 

生真面目しょうが(シュプレヒコール!

華子さんは華珠桜食品をもっと食べろ~!)

次女あらくれ大根(食べろ~!)

三女じょっぱりひじき(食べろ~!)

生真面目しょうが(末妹のしいたけを排除せよ~!)

次女あらくれ(そうだ~!)

三女じょっぱりひじき(そうだ~!)

 

いままでねえさんたちが怖くて、

台所のすみに隠れていた泣き虫しいたけが、

ほんとうに泣き出してしまいました。

(ひどいですよお、え~んえ~ん。

あたしはなんにも悪いことしてないのに)

それからも華珠桜四姉妹は、なんとなく居心地の悪い思いをしていました。

やがて珠夫君が中心になって、せっせと華珠桜四姉妹を食べ、

やっと食べきったのでした。

 

季節が、桜が咲き誇る春に移り変わりました。

寒い日もあれば、春らしい日もあります。

華子さんは、コーヒーを飲みながら、インターネットを開いていました。

そして、珠夫くんに話しかけました。

「ねえ?久しぶりに華珠桜食品、注文しない?」

珠夫くんは、華子さんが華珠桜食品に飽きてしまったのを、

とても残念に思っていたので、

「ええ、ほんとう?」
とびっくりするやら嬉しいやらでした。

「じゃあ、しょうがと大根とひじきとしいたけ、ひとつずつね」

華子さんはそういうと、キーボードを打ち始めました。

 

一週間後。台所には、

生真面目なしょうがと、あらくれ大根、じょっぱりひじき、泣き虫しいたけが、

顔を揃えていました。

みんな久しぶりに顔をそろえたので、なんとなくもじもじしていました。

長姉の生真面目しょうがが口を切りました。

(みんな、今度は仲良くしましょうね。

さあ、外は桜の見ごろよ。お花見に行きましょうよ。

といっても、台所の窓からみるだけだけど。)

次女のあらくれ大根が言いました。

(あたしはおさけを用意するわ)

三女のじょっぱりも言います。

(じゃあ、あたしはおつまみを作ります)

末妹の泣き虫しいたけは、

(じゃあ、あたしは歌をうたいます)

 

こうして久しぶりに顔を揃えた華珠桜食品たちは、お花見をしました。

末妹泣き虫しいたけの歌ったうたはなにかって?

華珠桜食品の社歌でした。

こうしてみんな力を合わせて、華珠桜食品を盛り立てていくのでした。