■2014年2月
膵癌の抗ガン剤は、ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)がここ10年あまり定番である。
ゲムシタビンと他の抗ガン剤を組み合わせた処方について多くの治験が行われたが、ゲムシタビン単剤より大幅に生存期間が延びる組み合わせはなかった。
ところが、最近、ゲムシタビンを含まない処方で、大幅に生存期間が延びる処方が登場した。
FOLFININOX(フォルフィリノックス)である。
これは、大腸癌で行われている、FOLFIRI(フォルフィリ)とFOLFOX(フォルフォックス)を合体したような処方である。
日本では2013年12月20日に保険承認された。
海外の治験によれば、ゲムシタビン単剤の生存期間中央値が6.8ヶ月にたいし、FOLFININOXは11.1ヶ月となり、大幅に生存期間が延びた。(伸びても1年無いところが膵癌の悲しいところだが...)
ただし、効くかわりに、副作用も超弩級である。
元気な人しか適用できない。60歳以下で、全身状態が良好な人が対象となる。
吐き気、食欲不振、手先のしびれ、味覚障害、下痢または便秘などの自覚副作用のほか
骨髄抑制(白血球や血小板が減ってしまう)の副作用がでやすい。白血球が減ると感染症にかかり致命的であるため、中止せざるをえなくなる。
日本で36人を対象に行った治験では、35人が副作用により中止、一人拒否という結果になっている。
(ただし、その後ゲムシタビンによる治療に変え、トータルの生存期間は延びている)
FOLFININOXは、3日にわたって、4種類の抗ガン剤を静脈に点滴する。
まず、吐き気止めを30分点滴する。
1つめのオキサリプラチン(商品名:エルプラット)を2時間かけて点滴する。
2つめのイリノテカン(同:カンプト)を2時間、3つめのレボホリナート(同:アイソボリン)1.5時間を同時に点滴する。
4つめのフルオロウラシル(同:5-FU)を30分程度で急速静注したのち、持続静注を46時間行う。
足かけ51時間以上かかる過酷なものである。
これを2週間間隔で繰り返す。
なお、薬がきついので、腕の静脈に点滴すると炎症を起こしてしまう。通常、中心静脈ポート(CVポート)を造設する。心臓付近の太い静脈までカテーテルを入れ、直径3センチ程度の針の刺し口を胸のあたりに埋め込む。
さて、自分の場合、ジェムザールにするか、フォルフィリノックスにするか、悩んだ。
ちょうど保険適用されたところであるし、幸い私は若くて元気がある。
副作用がきつくても、ちょっとでも長生きしたいと思いFOLFININOXに挑戦する決断をした。
第1回目の副作用の出方は次のようであった。
1日目。
一回目は左腕の静脈から点滴することにした。(血管痛があった。血管は炎症をおこして今でもコブになっている)
オキサリプラチンを点滴すると、左手の静脈付近と指先がしびれた。
イリノテカンの点滴を初めて1時間後、突如、激しい悪寒、鼻水、発汗、下痢が起こった。
コリン作用と呼ばれるもので、副交感神経から内臓などに信号が伝わったものである。
硫酸アトロピンを点滴することで、すぐに治まった。
フルオロウラシルの急速静注ののち持続静注にうつった。
尿が頻繁にでた。
ムカムカしてきた。
2日目。
フルオロウラシルの持続静注がつづく。
左手がしびれている。
頭痛がする。
食欲不振。フルーツぐらいしか食べられない。バナナ、カットパイン、イチゴを食べる。
ゲップがよくでる。
3日目。
フルオロウラシルの持続静注がつづく。
食欲不振。バナナ、リンゴ、カットメロンなどを食べる。
激しい下痢が始まった。一日で7回、水便が出る。
点滴のこり2時間となった15時頃から、猛烈な倦怠感が出る。
ベッドから起き上がれなくなる。
苦しさのあまり、うめき声が出そうになるが、4人部屋なのでこらえる。
4日目。
食欲不振、倦怠感、下痢が続く。
聴覚過敏になる。他の患者の生活音がうるさい。看護師、医者が他の患者と会話している声が、頭の中で響きまくる。コンビニで耳栓を買ってくるがあまり効かない。
耐えられないので、個室に移れないかたずねてみる。
一泊15000円の部屋しか空いていないと言われる。
4人部屋は我慢できないので個室に移る。(その後1ヶ月いたので、部屋代が45万もかかった。泣)
この日食べたのは、バナナ、リンゴ、パイナップル、カップ麺少量、いなり寿司1個、ハッピーターン数枚。
ちなみに、食欲不振のあいだ、病院食はまったく手つかずとなった。
5日目。
倦怠感が午前中つづいたが、午後はなくなった。
食欲も午後から復活した。フルーツの他、サンドイッチ、そうめんを食べた。
下痢は続き、水便が5回出る。
口内炎が出てくる。くちびる全体360度、口内炎があらわれて、ビックリする。
6日目。
口内炎が口の中にもあらわれる。
せっかく食欲が戻ったが、口内炎のため、食事がとりにくい。
下痢がひどく、8回も水便が出る。
7日目~16日目
下痢が続く。
週3回血液検査を行ったが、骨髄抑制はでなかった。
本来、2週間サイクルで行うが、下痢が続いたため、3週間サイクルにすることになった。
17日目
やっと軟便になった。
本当はFOLFIRINOXの副作用が苦しくて、2度とやるものかと思ったが、
のど元過ぎれば、なんとやら、副作用も抜けたところで
FOLFIRINOXの2回目をやる決断を行い、医師に伝える。
18,19日目
ちょうど土日が巡ってきたので、外泊許可をとる。
(土日病室を留守にしてもしっかり部屋代3万円とられる。泣)
家でお好み焼きを作ってもらって食べたら、胃が痛くなって寝込んでしまった。
久しぶりに家の風呂にゆっくりつかったら、37.8度の高熱が出た。
日曜日の午後10時頃、高熱でフラフラになりながら病院にもどる。
抗生物質を飲む。
20日目
一夜あけると、絶好調。
ほぼ健常状態とおなじ。
21日目
CVポート造設の手術をうける。1時間程度の手術。