「私たちが光と想うすべて」が話題になって、その前に撮られていたドキュメンタリーも公開、

ということで観ることができた、今回の「何も知らない夜」。




パヤル・カパーリヤー監督。

「私たちが光と想うすべて」を観た時には、こんなインド映画初めてだと思いました。

実際、最近日本で盛り上がっている「いわゆるインド映画」とは全く違います。

インド式美男美女の豪華衣装の歌と踊りと立ち回り無し、乱舞群舞無し。

静かに心に染みる登場人物たちの会話と、田舎の夜に輝く色付き電球の寂しさと温かさ、

そういうのが印象に残る映画でした。



「私たちが光と想うすべて」は2024年の製作で、第77回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞していて、

これはインド映画初の快挙!と公式サイトにありました。

監督の初の長編劇映画ということです。


対して、初の長編度キュメンタリーだったのが、2021年に完成されていた「何も知らない夜」。

美しく儚げ(に処理された)な映像と不思議な音楽(音?)、そしてそれに被さる手紙(恋文)の朗読。

夢のような映像体験なのですが、取り上げられている題材は夢のようではありません。


2016年に実際にインドで起きた政府への抗議運動や、極右・ヒンドゥー至上主義者による学生運動への弾圧が

映像に映っています。

それに読まれている恋文には、カースト制度で引き裂かれる恋人たちの苦しさも。


映像は監督が学生時代(インド映画テレビ技術研究所。その建物も映像に出てきました)に撮影していたものや、

古い家族映像などの集積なのだそうです。

伝統的な結婚式の様子や、髪に花を飾って笑う女性の横顔もあれば、警察に制御されるデモの学生たちも。

警察が踏み込んできて、棍棒で学生たちを打った後、カメラを壊す瞬間もあり、

生の映像をそのまま見ているような恐怖も感じました。


それら全ての映像のつながった流れに、恋文を書いた女性が相手に語りかけている声が柔らかく乗っています。

怖い夢を見た時には(デモに参加して警察の威嚇を受けた夢)動悸がおさまらぬ様子で切れ切れになったり、

大きなため息をついたり。

観ているこちらも現代インドの映画学校女子学生になって、映画の編集をしたりデモに参加して怖い思いをしているような

移入感がありました。


冒頭にこの手紙についての説明が文字で映し出されます。

映画学校の寮にあった小箱を開けると押し花などが入っていて、その中にLと署名があるラブレターもあったと。

解説によると「架空のラブストーリー」ということなのですが、読み手の巧みさと映像が相まって、

ドキュメンタリー映像に乗った架空恋物語なのか、恋物語は本物で映像が夢なのか、観ている自分の頭の中で

境界線がぼやけて来ました。


これまでのインド映画で知らなかったインド。

あ、踊り、ありました。

学生たちのパーティのシーンのモノクロ消音映像でしたが、普通にロックでのってる感じの踊りでした。

これなら一緒に踊れるよ😊


初長編劇映画と初長編ドキュメンタリーを観させてもらったので、この監督の次の劇映画もドキュメンタリーも観たいです。

この感触を抱きながら、次回作を待ちます。