「お別れの時間が近づいて来ましたね。」
人が亡くなるテレビドラマは 今まで たくさん観てきましたが こんな言葉で最期が近いことを告げられるシーンなんていまだかつて観た事はありません。
でも お別れの時間が近づいて来ましたね・・・というこの言葉は とても優しく 的確で オロオロしていた私と母は この一言ですべてを理解し 受け止めることが出来たように思います。
父には心電図などのモニターの類は最初から一切 付いていなかったので 父の浅く 静かな呼吸は 父の胸が規則正しく上下に動いていることで かろうじて息をしているのがわかる程度でした。
私は 浅くても規則正しく呼吸する父をじっと見ていました。
息を吸って 吐いて 吸って 吐いて・・・・あれ?息を吸わない?
「今、呼吸が止まりましたね。」
止まった!?
「あ、今、また呼吸されましたね。」
父は静かに 呼吸を止め またすぐに 静かに呼吸をするということを何回か繰り返し 徐々に 呼吸をしていない時間が長くなっていきました。
「今、呼吸が止まりましたね。」
「今、呼吸されましたね。」
看護師さんは 私と母が泣いて父を見ることが出来ないと思ったのでしょうか 父の呼吸の状況をすべて伝えてくださいました。
でも、私は泣いていても 父の最期を見逃すまい!と 目を見開いて父を見ていました。
モニターの音も無い部屋の中は 看護師さんの声と 母と私の鼻をすする音と嗚咽だけ。
父の胸の上下の動きは どんどん小さくなり 父が呼吸をしていない時間は長くなり やがて 父は完全に呼吸をしなくなりました。
「お別れの時間ですね。」