ホスピス 12 | 「これでもか!」に「負けるもんか!!」

「これでもか!」に「負けるもんか!!」

これでもか!これでもか!と私の身の回りに起こる出来事。大変なことや辛いことばっかりだけど、おかげで色々な経験をしました。せっかくなので記録に残しておきます。

「すー・・・すー・・・」 それはそれは気持ち良さそうに眠り始めた父を見た瞬間、私と母は 極度の緊張から開放されました。



その時は自分たちの上に乗っていた何か重いものが フッと消えるような感覚だったような気がしますが、とにかく 父の安らかな寝顔を見て、私たちも一気に気持ちが楽になったのです。



「は~~~~~、良かった~~~~~。こんなに気持ちよく眠れるようになるんだったら、もっと早く、薬を入れてもらえばよかったね~~~。お父さん、ごめんね~~~~~。」



人間とは不思議なものです 気持ちが楽になった途端 私は急にお腹が空いたのです。



さっきまで、この日一日 ほとんど何も食べていなかったにもかかわらず、何も喉を通らなかったし それでも空腹なんて 全然 感じてなかったのに・・・。



そして、父の穏やかな寝息を聞きながら、「このまま朝まで行けるんじゃない!?」と すっかり いつもの能天気母子に戻り、私はバッグの中に入れておいた お握りを食べ始め、母は用意してもらった簡易ベッドで寝ることに。



お握りを食べて落ち着いた私は テレビをつけ、イヤホンを片耳に もう片方の耳で父の寝息を聞きながら 毎週 楽しみに観ていた9時からのドラマを観始めました。


音量は絞ってあるものの テレビを観ながらでも聞こえてくる父の力強い寝息。



これなら朝まで大丈夫だよね。



もしかしたら 明日 一回 家に帰れるかもしれないな・・・今日はピンクのカットソーなんか着てきちゃったから着替えたいし。



それにしても このドラマ 録画予約もして来なかったから諦めてたけど 観れたわ~音譜




そんなことを考えながら ドラマを観て 片耳で父の寝息を聞き 時折 父の顔を覗き込んで安心し 来週の予告まで しっかり観て あー、面白かった と テレビを消した瞬間、父の寝息が聞こえなくなりました。







ちょっと! パパ、息してる? 見て!!」



母も父の寝息を聞きながら寝ていたのでしょう、すぐに起き上がれない母が叫びました。



「うん!見てる!息はしてるんだけど・・・。」



父の胸は上下に動いていて 呼吸はしているようでしたが、空気が肺まで到達していない 浅い呼吸という感じ。


急いでナースコールを押し 父の異変を知らせると すぐに看護師さんが来てくれましたが 父の様子を見ただけで 先生を呼ぶでもなく 脈を取るでもなく 静かに 優しく 私たちに言いました。




「お別れの時間が近づいて来ましたね。」