ホスピス 11 | 「これでもか!」に「負けるもんか!!」

「これでもか!」に「負けるもんか!!」

これでもか!これでもか!と私の身の回りに起こる出来事。大変なことや辛いことばっかりだけど、おかげで色々な経験をしました。せっかくなので記録に残しておきます。

父は この日一日 ウトウトと眠ることもなく 「あー・・・ あー・・・」と声を出しながらも 代わる代わる覗き込む人たちの顔をじっと見ていました。


夕方 親戚や夫と息子にも 何かあったら連絡するから ということで 一旦 帰ってもらい 私と母は泊り込むつもりで残りましたが 静かになった部屋の中に響く 父の「あー・・・ あー・・・」という声が 薬を使う決断が出来ない私たちの耳に突き刺さります。


だって 今までは 大事なことは いつも父が決めて来たのですから・・・。


私も母もどうしていいかわからず 2人で父の顔を覗き込み もう一度 聞きました。


「お父さん、苦しい?」


次の瞬間 父は ギューっと目をつぶり 私と母は ハッとして顔を見合わせました。


「苦しいんだね!」


「うん!」


「もう いいね? もう 眠ってもらっていいよね?」


「うん!」


「お父さん ごめんね! 今 楽にしてもらうからね!」



急いでナースコールを押し 薬をお願いしましたが 薬を持ってきてくれた看護師さんは 少しも慌てず 再度 「この薬を使うと もう 目が覚めませんが いいですか?」と私たちに聞いてくれました。


この時  私たちが また 迷い始めてしまったら 看護師さんは もう一度 私たちに時間をくれてのでしょうが 私たちには もう 迷いはありませんでした。


だって 父が決めてくれたんですから。




ただ、もう 薬を使うことには 迷いはない私たちでしたが この薬を入れると父に何が起きるのか・・・


『もう 目が覚めることのない薬』で『父が死ぬ』


私の中では 『薬』と『死』は直結していたような気がしますが 母も同じだったようで、私も母も薬を入れてもらった後の父の様子を一瞬でも逃すまい!と 固唾を呑んで父を見つめました。


ところが 私たちの勝手な思い込みとは裏腹に 薬を入れてから ものの数分もしないうちに父は静かに目を閉じ 苦しそうだった「あー・・・あー・・・」という息づかいは「スー・・・スー・・・」という寝息に変わり それはそれは 気持ち良さそうに眠り始めたのです。


『薬』と『死』は直結ではなく その間には『眠る』が入っていたのですね。