ホスピスの中は病院のような騒がしさは まるでなく どこもかしこも静かで穏やかでした。
ラウンジから外に出るとホスピス内の少し抑え目の照明に慣れきっていた私の目の中に 外の陽射しとともに赤やピンクの花の色や芝生の緑色、それらがいきなり飛び込んで来ました。
そこにはボランティアさんたちの手によるものでしょうか、とても手入れの行き届きたそれはそれはキレイな中庭があったのです。
5月のまぶしい日差しを浴びた色とりどりの花々と若々しい緑の草木、小鳥のさえずり・・・静かだけれど、そこここに草や木や虫たちの生命が満ち溢れていて 父のことで毎日気を張り詰めていた私が自分がこのまま溶けてしまうのではないかという錯覚にまでとらわれるような そんな場所でした。
そして、驚いたことにラウンジの裏手には 薪が積んであったのです。
あのラウンジにあった暖炉は本物だったのですね。
たぶん、積んである薪の量から察するに 暖炉は毎日焚かれるのではなく 週末のバーの日とか何かのイベントの時に焚かれるのではないかと思いました。
冬の夜にあのラウンジで火が入れられた暖炉の ゆらめく炎や パチパチと薪のはぜる様を見てみたい・・・見たい・・・でも 冬まで父がここにいることはない 絶対に。
まぶしい光を浴びた色とりどりの花たちから ふと目を建物に向けると部屋の窓際に置かれたベッドの上に人影が。
病室はすべて1階でほとんどの部屋が中庭に面しています。
この命が満ち溢れている中庭とガラス一枚隔てた部屋の中には 静かに静かに命の終わる時を迎えようとしている人たちがいるのです。
(ここは何だろう? この不思議な空間は現実のものなんだろうか?)
この時の私の気持ちを文章にするのは難しいです。
異空間に迷い込んでしまったような・・・・そんな感じかな?
父も入院した翌日だったか、車椅子でこの庭を散歩させてもらったようです。
ただ、後で父にそのことを尋ねても無反応でした(苦笑)。