私の父は平成19年5月10日に都内のホスピスで亡くなりました。
私がホスピスに関して体験したこと 見たこと 感じたことを少し書きますね。
まず、父はその年の3月30日、物がまったく食べられなくなり、以前に2度癌の手術をしてもらった病院に緊急入院しました。
その後、病状はどんどん悪くなっていくものの 今すぐどうこうという状況ではなく ただただ入院日数が増えていきました。
入院した病院は急性期病院で長期の入院は出来ず、転院を薦められましたが、父は自宅に戻りたい、それが無理ならホスピスに入りたいと希望しました。
当時は今ほど在宅での看取りの体制が整っていなかったようで、母ひとりの家に戻るのは無理だと言われ、ホスピスを紹介してもらうことになりました。
その頃には父は歩けなくなっていたので、2つの病院を紹介してもらい、私だけが父のレントゲン写真やCT画像、主治医からの書類を持って緩和ケアの先生との面談に行きました。
そこで、緩和ケアの先生に父の状態を細かく聞かれ、緩和ケアについて説明されました。
細かいことは忘れてしまいましたけれど、とにかく、
病気の治療はしない 我々がするのは患者さんの痛みや不快感を取り除いて出来るだけ穏やかな普通の生活ができるようにすること。
その痛みや不快感を取る術を我々はたくさん持っているので まかせて欲しい。
そして、痛みや辛さが取れて普通の生活が出来るようになったら外出してもいいし 家に帰ってもいい。
家に帰っている間もベッドはずっと そのままキープしておくので 辛くなったら戻って来て 痛みが取れたら また 外泊するということを繰り返してもOK。
それでも いずれ痛みやどうしようもない不快感が取れなくなってくる その時 それをどうにかして欲しいと言われれば 最終的には薬で眠ってもらうことになる。
というようなことを長い時間かけてゆっくりと説明してもらいました。
その中で、私が「症状が改善されて元気になったら、抗がん剤も使えるようになりますね。」とつい言ってしまった時、先生の表情がサッと固くなり、語気を強められました。
「我々は病気が良くなるための治療はしません。そういう治療をしてもらいたいなら他の病院に行ってもらうしかありません!」
そうだった! ホスピスは病気の治療をするところではないんだ!と、ハッとしました。
たぶん、先生は今まで何人もの患者さんや家族にこういう良くなる治療をして欲しい、と言われたんだろうな・・・と感じました。
ここは治らない患者の苦しみを取り除いて穏やかに死を迎えられるようにする場所。
わかってるんです。
十分納得して申し込みをしに来たはずなのに、やっぱり、元気になったらそのまま良い方向に、と思ってしまう。
病院に入院したら良くなる治療をしてもらう という根本的な概念を捨てなきゃいけない、ここはそういう場所なんだ ということを頭に叩き込んでおかなければいけない、私は改めて覚悟を決め、気を引き締めました。
私が面談に行った1つ目のホスピスはかなり規模の大きい病院に併設されていて 2つ目はそんなに大きくはないけれど、実家に近くて馴染みのある病院に併設されていました。
ただ、どちらも満室状態で、1つ目は最低1ヶ月待ち、2つ目は22人待ちで、私はどちらも今の父の状態では間に合わないな・・・と半ば諦めていました。
それなのに父が2つ目実家に近いホスピスに22人抜きで入院できたのは、父の状態が待っている人の中で一番悪かったからだったのだろうと思います。
つづきます