息子がICUを出て一般病棟の個室に移動した初日、最初に来てくれた看護師さんから私たちは先制パンチを浴びせられた。
「ここはICUではないので、ICUのような至れり尽くせりの看護は出来ません!」
「ねこ山です。よろしくお願いします。」と挨拶をした直後の先制パンチ。
この先制パンチで途端に心細くなった私たち。
何しろ、この個室はナースステーションには近いけれど、ベッドの息子の枕元にあるのは普通の手で押すタイプのナースコールだけ。
頭しか動かせない息子がそんなナースコールを押せるわけがなく、その息子が看護師を呼ぶためにはどうしたらいいのか。
私は恐る恐る、先制パンチを繰り出してきた看護師さんにどうしたらいいのか聞いてみたところ、何とかしますので待っててください、と帰って行った。
息子が手も足もピクリとも動かせないということは病棟にも伝わってるはずなのに、こちらから言わないとナースコールさえ用意してもらえないということに益々、不安が募る。
そして、待てど暮らせどナースコールの件に関する答えは無く、じれる息子が看護師に聞いてみてくれと言うので、先ほどの看護師さんに更に恐る恐る聞いてみると・・・
「ですからっ! ここではそんなにすぐには対処できませんっ!!! もう少しお待ちくださいっ!!!」
やっぱり・・・大きなため息つかれて、睨まれて、ピシャっと言われてしまった。
一般病棟の看護師というのは、みんなICUから出たばかりの不安いっぱい、心細さいっぱいの患者とその母親にこんなキツイ言い方をするのか!?
私はこんな冷たい看護師ばかりの病院に手も足もどこもかしこも動かせない息子を一人、置いて帰らなければならないのか!!
あの先制パンチを繰り出した看護師さんが『至れり付くせり』だと言っていたICUでさえ、看護師さんに来て欲しくても目が合わなければ自分のベッドの近くに来ても素通りされてしまうと不満を言っていた息子は看護師さんが近くを通りもしない個室でナースコールも押せなかったらどうしたらいいんだ!と心細さと怒りで顔は引きつり、涙目になっていた。
それからしばらく、息子と二人でポツンと個室に取り残された気分で途方に暮れていたら、夕方近くにリハビリ担当という方が二人バタバタと部屋に入って来られた。
「遅くなってすみません! 何とかねこ山くんが押せるナースコールは無いかと探したんですが無くて、取りあえず、今日はこの大きいタイプのナースコールをダンボールで工夫してみようと思うんです。」
リハビリ担当、今思うと作業療法士だと思うけれど、とにかくその方たちが息子を交えて、こうしたら・・・それよりもこうしたら・・・こういう角度だと・・・などと、一生懸命やってくださっている姿を見て、頼もしい千の味方を得たようで、あぁ、よかった!と私は胸をなでおろした。