ギランバレー症候群 8 | 「これでもか!」に「負けるもんか!!」

「これでもか!」に「負けるもんか!!」

これでもか!これでもか!と私の身の回りに起こる出来事。大変なことや辛いことばっかりだけど、おかげで色々な経験をしました。せっかくなので記録に残しておきます。

仕事帰りの夫も病院に来て二人で息子の側にいたけれど、苦しい苦しいと訴える息子に、ただただオロオロするだけしかできない無力な親の私たち。



それでも夜になり、義父に夕飯を用意しなくてはならず、看護師さんに、どうかよろしくお願いしますと泣きながらお願いをして帰ることにした。



家に帰り、義父に息子の状態を報告して3人でため息をついたところに、私の携帯に息子の病院から電話が入った。





「息子さんの容態が急変しましたので、すぐに来てください。 30分以内に来られますか?」





容態が急変!? 30分以内!? これってどういうこと!?




息子が危ないの!? 息子が死にそうなの!?




私の心臓はバクバクし、手も足もガクガク震え出したけれど、とにかく病院へ! 義父も一緒に病院に向かった。





息子が死んでしまうかもしれない?




昨日まで元気で、ついさっきまで苦しそうではあったけど、ちゃんと温かくてちゃんと生きていた息子が?




この数年前に義母を突然死で亡くし、つい半年ほど前には実父を癌で亡くしていた私には『死』はとても身近なものだった。





さっきまで普通に肌の色をしていた指先が一番最初に色を失い、温かかった体は白くなった指先から順々にどんどん冷たくなって行く。


柔らかかった体は冷えて硬くなり、ドライアイスを置かれてカチカチになる。





息子が? 冷たくなって硬くなる?




もし、死んでしまったら、次に家に帰る時は冷たく硬くなって帰ることになるの?




私の頭にはこの時、息子が崖の上に やじろべえ のようにユラユラと立っている姿が浮かんだ。




崖の向こう側に行ったら、もう二度と息子に会えない!




死んでしまったら、もう二度と息子と話をすることが出来ない!




向こう側に行っちゃダメだ!





『生』と『死』、表裏一体のこの2つの違いをこの時ほど痛感したことはない。




『生』には続きがあり、『死』はそこで終わり。





どんなに「人は亡くなってもあなたの側に居ます。風になってあなたを見守っています。」なんて言われても、そんなの生きてる方にはわからない。




だって、お義母さんにもお父さんにもあれから会えないじゃない!




どんなに「ちょっとだけでいいから、会いたいの!」とお願いしても会いに来てくれないじゃない!



死んだらおしまいじゃない!



だから・・・




「お父さん、お願い! 虎太郎(こたろう)を連れて行かないで! お願い!」





病院に着いて案内されたガランとした家族待合室で、私は何度も何度も声に出して父に息子を連れて行かないでとお願いしていた。



何度目かの私の父に対してのお願いに応えるように隣に座っていた義父がつぶやいた。




「大丈夫、ヒロコは虎太郎を連れて行かない。 大丈夫。」




どうやら、義父は義父で義母に虎太郎を連れて行かないでくれと頼んでいたらしかった。





何時間くらい待たされたのだろうか、その頃、すでに息子は大部屋から処置室に移されていたのだけれど、この後は集中治療室に移動することになっていて、その前に少しだけ会えることになった。




息子の様子は一切知らされていなかった私たちが恐る恐る処置室に入って行くと、息子のベッドを担当医2人と研修医数人、それに看護師さんたちがグルリと囲み、何やら息子に話しかけ、口に管をくわえさせられた息子は先生たちの言葉に頷いていた。




あれ? 元気じゃん!?




口に管をくわえ研修医にアンビューで酸素を送り込まれている息子は先ほどの苦しそうな顔から一転して穏やかな顔になっていた。




よかった~~~~!! 死にそうな感じじゃないじゃない!! よかった~~~!!




私たちがベッドに駆け寄ると、息子はしっかりと私たちの方を見た。




その時、どんな言葉を息子にかけたのか、覚えていないけれど、すぐに集中治療室に移動するために部屋を出ようとするベッドの息子に向かって私は叫んだ。




「リハビリ用にDS買おうね! Wii Fitも買おう!」





実は前日、これはギランバレーだ!と確信した私たちは、以前のギランバレーの時はゲームボーイが腕や指先のリハビリにとても役立ったことを思い出し、今回は少しでも手が動くようになったらDSを買って楽しくリハビリすればいいね、それで体も動くようになったらWii Fitだね!と話していたのだった。






私の言葉に微かに笑って頷く息子。




「おっ! そりゃ、すごいな!!」




先生たちが驚いたように言って笑い、そして息子はゾロゾロと先生や看護師さんたちを従えて部屋を出て行った。