【武術と武道】
日本書紀には、出雲の豪族「野見野宿禰(のみのすくね)」と、大和の国の「當麻蹴速(たいまのけはや)」と言う人物の、ぶつかり試合が書かれています。この力持ち同士の一戦が、相撲の起こりだと言われています。
一方、古事記には武神「タケミカヅチ」とオオクニヌシの息子「タケミナカタ」との神同士の力比べが描かれていて、こちらを相撲の起源とする説もあるようです。

武道場には、「タケミカヅチ(鹿島神宮)」や「フツヌシ(香取神宮)」の武の神様が祀られている所が多いと思いますが、神棚が設置されるようになったのは昭和11年頃からのようです。
意外にもそれは国からの命令によってのものでした。
当時、軍国主義真っ只中の日本は「国家神道」普及の為に、道場などへの神棚の設置を義務付けたのです。

江戸時代の始め頃は「道場」を「稽古場」と呼んでいて、屋外や土間で稽古していたそうです。

中頃になると、剣術は竹刀稽古、柔術は乱取り稽古が中心となっていき、次第に板張りや畳の稽古場へと変わっていきました。
その時代の稽古場には一段高くなった「床の間」があり、そこに「鹿島大神宮」「香取大明神」の二柱の神名が書かれた掛け軸が飾られていたそうです。
床の間は「とこしえ」と言った意味があり、その家の繁栄を願う神聖な場として、大切にされてきました。

明治になってから「稽古場」は「武道場」へと名が変わり、いつ頃からか「武」が取れて「道場」と呼ばれるようになりました。

「武道」のルーツは「古武術」です。
古武術は軍事を担っていた「武士」によって発展してきました。
「武士」の登場は平安時代で、田の耕作や経営を行った「田堵(たと)」と呼ばれた有力な農民達が自衛の為に武装して「武士団」を作ったのが始まりだと言われています。
「古武術」の起源は明らかではないようですが、弥生時代に大陸(朝鮮半島)から「水稲農耕(すいとうのうこう)」がもたらされた頃くらいからではないかと考えられています。
農耕がもたらされ、村や社会が出来始めると、人々は伝来した武器や鉄製農具などを用いて争いを始めたのです。
個人間での争いが、集団間への争いへと広がり、その中で体術や武器の使い方などを覚えていったのではないでしょうか。

当時の国を挙げての大きな戦いは「白村江(はくそんこう)の戦い」《朝鮮半島の唐や新羅軍との戦い》が有名ですが、その戦いに敗れた日本は、相手のさらなる攻撃に備えて、九州沿岸部の防備を固めなければなりませんでした。
その役目を担ったのが「防人(さきもり)」です。
この防人に授けられた闘争術が、正式な武術の一歩ではないかとも言われています。
ちなみに平安時代に書かれた、日本最古の兵法書「闘戦経(とうせんきょう)」は武士道精神の原点となる書だそうです。

平安時代から鎌倉時代にかけての合戦は「刀」などによる1対1の戦いが主流で、それが「槍」や「弓」などを用いての団体戦に変わっていくのは、戦国時代に入ってからのことです。
このあたりから「槍術(そうじゅつ)」や「剣術」などに磨きがかかり、武士の間で剣術が広まり、様々な流派が生まれました。

江戸時代になってからは、戦いそのものが少なくなり、武術の「他流試合禁止」などもあって、殺傷目的だった古武術は次第に形式化されていき、精神性の方向に舵を切っていったようです。

さらに明治に入ってからは、武士階級もなくなり、「決闘禁止令」が法律で定まるなどして、武術はますます、礼儀や作法などの精神文化と融合していくのです。
このように「武術」が「武道」に変わるのは、江戸時代に入ってからですが、その名称が「道」になったのは大正時代になってからでした。
「道」と言う字を当てることで、より精神性を打ち出し、スポーツの要素も取り入れながら、学校教育にも採用されていったのです。

一般的に武道といわれるものには「柔道」「剣道」「弓道」「相撲道」「空手道」「合気道」「少林寺拳法」「なぎなた」「銃剣道」の9種類があり、国内250万人、海外で5000万人の愛好者がいると言われています。

現在、古武道(術)と呼ばれるものには「柔術」「剣術」「居合い、抜刀術」「槍術」「杖、棒術」「なぎなた術」「空手、琉球古武術」「体術」「砲術」「その他の武術」の10種類があります。
沖縄では古武術と言えば、一般的に武器術を指します。
沖縄空手と武器術は、よく車の両輪に例えられ、互いに無くてはならないものです。
両方を学んでこそ、それぞれの技も深まり、特に釵(さい)やトンファーは空手の上達には欠かせない武器だとも言われています。

世界最古の兵法書は2500年前に書かれた「孫子の兵法」です。
そこには、軍隊や兵士を無駄に消耗させず、犠牲は最小限にとどめ、「戦わずして勝つ」事の大切さなどの「非戦、非攻、非久(長引かせない)」が説かれていて、じゅうぶん現代にも通用する、画期的な書です。
国のリーダー達は、果たしてこれを読んでいるのでしょうか?