遅咲きにもホドがある -3ページ目

遅咲きにもホドがある

【ばばあの一人旅入門】
初老にして一人旅に目覚めました。どっぷりと老人になり、持病に悩まされ、ヤサグレまくりながら生きています。

 


中東では、日本人女性はものすごくモテるらしい。

年寄の私には若い男は一切寄ってこなかったが、確かに子供やおばちゃんにはたまに囲まれた(関係ない)。

中東の旅の途中で会った若い女性は、

「おもいっきり不機嫌な顔で歩くよう心掛けている。でないと男が寄ってきてうっとおしすぎる。声をかけられても絶対に返事しない」

と、悲しいような羨ましいようなことを言っていた。

想像するに、私がモロッコで物売りにかまわれた約100倍ほどのかまわれっぷり、だと思われる。

 

「ぼったくり価格で物を押し売られる」と「熱心に口説かれる」とではずいぶん違うけど、それでもそう考えると彼女の苦悩もわかるような気がしないでもなかった。

 

 

 

 

数年前の初夏に中東の観光地を訪れた時のこと。

 

 

 

食堂で、従業員の男性(推定30歳)から「日本人ですか?」と話しかけられた。

「そうです」と答えると、彼は嬉しそうに「私には日本人の婚約者がいるんですよ」とはにかむ。

さらに「彼女は26歳でとてもかわいい人。名前はエリコといいます。3月に出会って恋に落ち、1週間僕の家に滞在しました。来年結婚して、僕の家で暮らす予定です」と言った。

私は、これほど文化の違う砂漠のようなこの町に嫁ぐことを決意したその日本人女性に、尊敬の念と感動を覚えた。

それほどまでに人を好きになるとは。すごいことやなぁ…

「秋になると結婚の準備のために彼女が来ます。早く会いたい!」

と言い募る彼に「幸せになってくださいね」と伝え、食堂を後にした。

 

 

それから一週間後、私は、そこから500キロほど離れたちょっと辺鄙な遺跡を訪れた。

 

 

遺跡から1キロほどの村へと戻った私は、ペンションが併設された雑貨屋に立ち寄った。

すると、店の男性(推定25歳)から「日本人?」と尋ねられた。

肯定すると、その男性は「おぉ。僕には日本人の恋人がいるんですよ」と破顔した。

私は「またなのか。日本人女性、すごいバイタリティーやな。こんな遠い国の、しかもこんな辺鄙な場所に恋人を作るなんて」と、1回目よりは若干目減りしながらもまぁまぁ感心した。

 

男「彼女は3月に遺跡にやって来て、僕らはすぐに恋に落ちた」

 

私「…なんか…デジャヴ」

男「うちの(ペンションの)部屋で1週間二人で過ごした。もちろん無料だよ」

私「…無料のくだりはどうでもいい情報のような」

男「彼女はすごく良かった」

私「…下ネタじゃねぇか」

男「彼女は23歳でエリコというんだ。秋にはまた彼女に会える!」

 

…エリコ!? 年齢はちょっと違うから別人なのか!?

 

でも「3月に出会って、秋にまた来る」らしいし…。 

 

とは言え確かめるすべもなく、更に下ネタトークで盛り上がろうとする男を殴って立ち去るしかなかった。

 

 

 

そしてそれから数日後、私は陸路で国境を越えて隣国の観光地(あんまりメジャーではない)へと向かった。

 

 

今夜の宿を探して目についたペンションを覗くと、禿頭のおじさん(推定50歳)が出てきて

「日本人か? 部屋なら空いてるよ。まぁ紅茶でも飲んでいきなさい」と招き入れてくれた。

 

中庭では奥さんらしき女性がひたすらジャガイモの皮を剥いていた。

 

おじさんは、

「この先どこへ行くつもりだ?わしはツアーガイドもやっているので、お安くアレンジしまっせ。わしは日本人が大好きだから」

と、商売っ気を全開にしていたが、奥さんが山のようなジャガイモを持って去った途端、ニヘニヘと笑って、

「実は、春に日本人女性と半月ほど一緒に旅行したんだ」と言った。

禿「わしの車で。ホテル代も食事代も全部わしが払ってやった。素晴らしい日々だった」

禿「一緒に撮った写真があるけど、見る? もちろん見るよね? 死んでも見るよね? わしらのスイートメモリーを」

私「どうでもいいですよ」

禿「彼女は26歳で、エリコ…」

 

 

……。 

 

 

!!

な、なんだとぅっ! エリコぉぉお!?

 

「み、み、見ます見ます! 早く見せて! とっとと見せろハゲ!」

 

 

つ、ついに私はエリコさんの顔を拝むことができるのだ(大げさ)!

 

おじさんから写真をひったくるように取り上げる。

しかし…

 

そこに写っていたのは、40代半ばと思しき『地味なおばちゃん』だった。

 

 

 

「…おぅ?」

 

 

彼女に何かのっぴきならない事情があったのだとしても、決して26歳ではあり得なかった。

どれだけ傍若無人にサバを読んだとしても、36歳がせいぜいだ。

 

「どうだ? キュートだろう? ついでにわしもプリティだろう? …て、どこへ行くんだ?泊まらないのか?」

 

 

私は、「ちょっと考えたいことができたので、やっぱり今夜のうちに次の町へ発つことにしました」と、ペンションを立ち去った。

 

 

 

実は、その少し前、とある宿の朝食のテーブルで25歳の中国人女性に出会った。

 

 

 

朝青龍似の彼女が「中東ではほとんどお金を使わずに旅ができる」と言ったので、当然私は「なんだ、そのおいしそうな話は!?」と喰いつき、理由を尋ねたのだ。

 

すると彼女は「男にちょっと笑いかければ食事代はタダになるし、一緒に行動すれば交通費もホテル代も要らない。珍しい名所なんかにも連れて行ってもらえるし、いいことづくめ」

と、のたまった。

美人が言ったらそこはかとなくムカついたかもしれんが、朝青龍が言うと鷹揚に構えていられるのが不思議だ。

 

…そうか。ひょっとするとエリコさんはお金が無かったのかもしれない。

だからこの女性と同じスタイルで旅をしていたのかもしれない。

 

しかし。 下ネタ男と禿のおっちゃんはいいとしても、婚約者の男性は良い人そうだったので気にかかる。

 

もし本当に結婚するのだとしても、明らかに年齢詐称だし…。

 

って、まぁ単純に、女性バックパッカーの間で名前を尋ねられた時テキトーに答えるのに『エリコ』という名前が流行っていただけかもしれないけど。

 

 

 

でも数年経った今となっても、できることなら真相を知りたいと思う。

 

 

そして、エリコさんに可能だったのなら私も死ぬほど若作りすれば何とか…てなことを…

 

空爆ホテル


私にとって今までで最も難易度の高かった国、レバノン。

準備万端整えて心待ちにしていたエジプト旅行がデモ騒ぎのため中止になり、急きょ行き先を変更したため「なんやよぅわからん」まま行くことになってしまった目的地だ。

 

日本人がレバノンに行くにはビザが必要なのだが、これは大使館に電話して

 

「空港でアライバルビザが取れる可能性が95%くらいです」というビミョーな返答をもらったので、まぁOK。

あとは当たって砕けろだ。

幸い私の乗る便は昼過ぎに到着するので、「宿は現地で探せばいいだろう」と、ホテルも予約せず出発の日を迎えた。

 

私の乗るのは深夜発のアブダビ行。

 

少し早めに空港に到着し、チェックインカウンターへ向かう。

 

ここでまず『チェックインが始まっているのに誰一人並んでない』という、初めての光景に驚いた。

 

にわかにめっちゃ不安になり、早くも眉間に縦皺が寄り始める。

 

係のおねえさんは優しそうだったのでちょっとホッとしたが、私のeチケットを見て、

 

「ベ、ベイルートですか…。…。…。 く、国はどちらですか?」(首傾げ気味)

と、衝撃の一言を喰らわせてくれた。

仮にも国際航空会社の社員さんにタダのマヌケ主婦が、恐れ多くも「レ、レバノンです」とご教示する。

おねえさんは、「そ、そうですか。…し、少々お待ちください」と、どこかへ電話をかけ始める。

そしてまずはビザの件を、次にレバノン出国後の旅程などを電話を切らずに尋ねられる。

おねえさんは私の答えを逐一電話の向こうに伝えている。

 

このあたりで「もし出国できなかったらどのツラさげて帰宅しようか。てかもう電車ないんじゃね?」とかなり不安になっていた。

 

そして、おねえさんは最後の質問という感じで「予約した現地のホテルのバウチャーはお持ちですか?」と、のたまった。

 

「持ってません。し、取ってません」と答えた私に、おねえさんは申し訳なさそうに「バウチャーがなければ飛行機に乗せられないんです」と宣告。

 

固まる私に、「あちらのインターネットコーナーで今からどこか予約できないか探してみていただけますか?チェックインは通常1時間前までですが、私どもも精いっぱいご協力させていただきますから」と気の毒そうにおっしゃった。

 

私たちのやり取りの間もチェックインに現れた客は2組ほどしかいなくて、かなり暇そうだったし、ギリギリでもなんとかなるのかもしれなかった。

 

 

 

正直言うともうパニックを起こしかけているし、いっそやめたいくらいだったが、おねえさんに急かされて機械的にインターネットコーナーに向かう。

 

 

そこには2台のパソコンとプリンターが並び、『10分100円』というナメくさった料金が書かれていた。

私は出国前に日本円ジャリ銭は1円残らず処分することにしているので、ここでまず『千円札を両替する』という無表情にならざるを得ない屈辱を味わう。

 

そしてまずは馴染みの『Booking.com』にアクセスしベイルートのホテルを探すも、何しろもう明日のことなので、直前過ぎて予約可能なホテルが一つも出てこない。

 

仕方ないので次に『Hostel world』にアクセスすると、どうにかいくつかのホテルが表示された。

 

 

ところで、ここで二つほど言い訳しておきたい。

 

 

まず、私はめっちゃ焦っていたということ。

チェックインのリミットもさることながら、10分100円という腹立たしいネット料金に。

次に、Hostel world に掲載されている宿は安価で若者向けのところが多い、という先入観を持ち合わせていたということだ。

 

 

ざっとチェックすると、最低でも1泊4000円くらいする。 ちっ。けっこう高ぇな。

 

 

私はその中で一番キレイそうな1泊5500円のホテル選んで

「ちょっと高いけど、背に腹は代えられん。とにかく2泊分ほどさっさと予約してしまおう」と、住所氏名などを大急ぎで入力してゆく。

 

翌日のことなので、予約が成立した時点で全額のキャンセル料がかかる。要するにキャンセル不可だ。

 

そして最後のクレジットカードの番号と名義・期限を入力し、ろくに見直すことなく、決定ボタンを押した。

 

が、なぜか「入力内容を見直せ」的な『赤文字(英文)』が出てしまう。

 

 

なんでだっ!?

 

早くしないとまた100円かかるぢゃないかっ!!

 

私は目を皿のようにして入力内容を見直す。

 

「はっ! 有効期限の年と月が逆ーー!」

テケテケと入れ直し、そのまま決定ボタンを再押下。

しかし、またダメ。

よく見ると、さっき入れたセキュリティコードが勝手に消えてるーー!!

 

 

…はいー、タイムリミットー。

 

 

私は断腸の思いで数枚目の100円玉を投入し、時間的猶予ができたことでちょっとだけ冷静になった。

そこで、万が一入力内容が間違っていた場合やっぱり出国できない憂き目に遭う可能性があるので、もう一度名前のアルファベットやらをざっくり見直してみることにした。遅っ。

 

「名前、OK。 生年月日、OK…… 支払い料金は2泊で11000円…

 

 …。目が霞んでよく見えんな。…ん?110000? 

 … いち、じゅう、ひゃく、せん、まん

 … じ、じ、じ、じゅういちま~んん!? え~ん!? はいぃぃぃいいっっ!!??」

 

高速でまばたきしてみても表示はやっぱり円換算で11万円となっている。

 

私はせっかく入力した情報がすべて消えてしまうのも構わず、慌ててホテル予約のページに戻る。

円換算は0が多くて混乱するので、ドル表示に変更。

 

…1泊…550ドル。 55ドルやのうて。 

 

550ドルやて、奥さん。

小汚いオバハンが一人で5万5千円のホテルに2泊やて。 ありえんわ。KYやわ。

バックパックやで。全身ユニクロやで。ダイソーの財布やで。ショルダーバックはオオタヤで1000円やで。

 

 

てか、あぶねぇえーーー!

 

 

 

私がもし1回目の初歩的な入力ミスをしなかったら、KYホテルに11万円支払わなくてはいけないところだったのだ。

 

そんな高級ホテルやったら、もっとデカイ写真を載せてそれとわかるようにしとけよ!

この不自然に小さい写真はぜってー『おっちょこちょいの早とちり』を誘発しようとしているに違いない!

 

私は冷や汗をぬぐいながら今度は分相応のホテルをじっくり探し始めたのだった。

 

 

 

結局1泊45ドルのホテルを予約したのだが、暖房すらなく、ボロくて心が荒みそうな宿だった。

 

 

てことは、おそらく11万円払ったところで日本のビジネスホテル程度だっただろうと想像してみたり。

万が一料金相応の高級ホテルだった場合は、もったいなくておいそれと外出もできなくなったに違いないし。

ついでに、緊張してずっと正座して過ごさなくてはいけなかったかもしれないし。

 

 

…それにしてもけっこう間一髪やったなぁ。

 

 

 

 

 

 

いずれにせよいろんな意味で懲りて、それ以降、最初の1泊はホテルを予約していくようになりました。

 

 

 

 



アンコールワットに近いシェムリアップという町に滞在していた時。

朝から腹を掻きながらフロントへ行くと、「あ!切らないで!電話を切らないでください!このまま待ちますから!」という、日本人男性の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

その瞬間、私は彼の状況をある程度想像することができた。

なぜなら私にも覚えがあるからだ。

彼の通話相手はおそらくカード会社か銀行、または保険会社の類だろう。


クレジットカードのエマージェンシーコールの説明には、『海外からはコレクトコールでおかけください』みたいなことがしれっと書かれている。

ここで、素人は「何かあっても無料で電話相談ができるんだ♪」と、安心して出国する。

もちろん、コレクトコールを申し込む際の英会話例はがっちりメモしておくとも。

でも。

私は、海外からのコレクトコールに成功したことはない。


私がカード会社に電話する理由としては、おおむね「食あたりのため」付帯保険を利用したい時だ。

使ったことがないから不安で、その方法を聞きたくて電話する。

しかしまず第一に、それほどの食あたりに見舞われるのは、だいたい『途上国』においてなのである。

で、そんな国で「コレクトコールをかけたいのですが…」と尋ねても、「はい?」と言われるのがオチなのだ。

そう。コレクトコールなんてないのである。

(正確には’ある’のかもしれないが、わしら素人には難関すぎるのだ)


仕方ないので、自分の携帯から直接国際電話をかける破目になるわけだが、当然すんなりとは話が進まない。

大抵は、まず「お電話ありがとうございます。こちらは○○です。ご希望の項目を選択してください」みたいな音声案内が流れる。

更には「お客様の回線の確認をいたしますので、シャープボタンを…うんぬん」などというくだりもあったりなかったりする。


そして、「・・・・・・・・・・(すでに3分ほど経過)、オペレーターと直接お話ししたい方は数字の8を押して…」のくだりまでにもう脇汗やら背汗やらをたっぷりかいている。

で、8を押した後の地獄の宣告。

「申し訳ありませんが、ただいまお電話が大変混み合っております…」


もはや発狂寸前である。

日本からフリーダイヤルでかけていてすら若干イラッとする『軽やかな音楽』に殺意を覚える。

しかも一体いつまで待たされるのか想像もつかない点が恐ろしい。

思わず、奇声を上げながらそこらじゅう走り回りたい衝動に駆られる。


たっぷり待たされた後、やっとオペレーターが出る。


ここからも、こちらの住所氏名生年月日やらカード番号やら有効期限やらを延々と訊かれる。

更に、『本人確認のため』とかいうまだるっこしい問答もクリアしないといけない。

海外から自腹でかけていることがわかると、「折り返し」を申し出てくれる場合が多い。

しかし、自分の携帯では着信でも料金がかかるため、事前に、使わせてもらえる現地の電話を確保しておかなくてはいけない。

それを怠った(忘れた)場合、さらに少なくとも5分ほどのロスを余儀なくされることになる。



…とまぁ、そんなことやあんなことをやっている間に携帯電話料金は恐ろしいことになっているのだ。


ちなみに、私がかけたインドネシアやシリアからも、彼のかけているカンボジアからも、1分380円という料金がかかる。

下手をすると、オペレーターに繋がるまでに5000円くらい飛んでしまう。

一旦電話を切ってしまうと、次またおねえさんの声を聞くために5000円払わないといけないのだ。

悪徳テレホンクラブかっ!


だから、いったん繋がった電話は何があっても切ってはいけない。

『現地へのかけ直し』を固く約束してもらえるまでは断固として切らせない。

かけ直し番号も細心の注意を払って伝えないと、間違えたらもう一度5000円だ。

ていうか、もはや実費で受診した方がいっそ安上がりなんじゃないのか?



…そんなこんなで、冒頭の彼のような悲痛な叫びになるのだ。



どうにか『かけ直し』を約束させたらしい彼は電話を切り、私に気づいて「日本人ですか?」と言った。

なんと彼は今朝、到着した空港で全財産の入ったバッグを掏られたのだという。

気の毒すぎて言葉が出ない。

そこで、カード会社に電話して、カードの停止と再発行、旅行費用のキャッシングの手続きに追われているそうだ。

で、先ほどの悲痛な声を聞かれた照れもあってか、「もう既に電話代が1万円近くいっちゃってると思うんで…」と言った。



わかる。わかるよ、おにいさん。

私たちは無知なのだろうか? 旅慣れた人ならもっと賢い方法を知っているのだろうか?



私の出した結論としては…


途上国ではもっと緊張感をもって盗難や食あたりをかわすよう心がけないといけない


ということのみである。

だが、もちろんかわせない。