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遅咲きにもホドがある

【ばばあの一人旅入門】
初老にして一人旅に目覚めました。どっぷりと老人になり、持病に悩まされ、ヤサグレまくりながら生きています。

旅のスキルが一向に上がらない私は、いつまで経っても『一人旅入門』の位置から先へ行けない。

それはもう、これでもか!アホかいな! というほど数多くの失敗を繰り返す。

その中で一番「これでもか!」なのは、当然ながら『ボッタクリ被害』だ。

 

これはやっぱり旅の初心者にとっては避けることのできないことだと思う。

 

そこで、ちょっと言い訳をさせてもらうことにします。

 

 

まず、裕福でもなんでもない私にとって、『旅』は非常に特別なものである。

 

何日も前から不安になったりワクワクしたりしながら、やっと実現した『旅』なのである。

で、旅慣れてない私にとってそれは当然ながらとても貴重な体験で、大切な思い出になるのである。

自然な心理として、できるだけ楽しい思い出でいっぱいにしたいと思ってしまう。

 

旅が終わってから、

  「美味しいものばかりだった」

  「素敵なところばかりだった」

  「いい人ばかりだった」

などと言いたいのである。 思いたいのである。

だから、旅先で関わる人をことさら『いい人』だと信じようという気持ちが働くのだ。

 

 

余談だが、上海で日本人観光客がよく遭遇する『中国茶のパフォーマンスの誘い』というのがある。

 

路上で中国人の若者グループから「写真を撮ってもらえませんか?」などと話しかけられ、とてもフレンドリーに話がはずむ。

彼らはあくまでも「自分たちも観光客」というスタンスで、そこがまた警戒心を解かせる。

そしてある程度打ち解けた頃、「ちょうど今、近くでお茶のパフォーマンスが開かれているんだけど、良かったら一緒に行きませんか?」と誘われる。

「面白そうアル♪」とついて行くと、めっちゃ高額なお茶を買わされるらしい。

私も何度か遭遇したが、一緒に行かなかったので、それが単純な勧誘なのか詐欺なのかはわからない。

ただ、この誘いに乗った人の中で「ハメられた!」と怒っている人もいれば、一方では「良い経験ができて、珍しいお茶も買えた」と、むしろ感謝している人もいるのだ。

 

怒っている人にとっては『詐欺被害』となり、喜んでいる人にとっては『良い出会い』になるのである。

で、当然ながら、どうせ結果が同じなら『良い出会い』として思い出に残る方が断然いい。

 

前置きが長くなったが、そういうことなのだ。

 

旅の初心者は、相手を安易に『良い人』認定してしまうのだ。

自分の大切な旅を『良い思い出』ばかりで埋めたいばっかりに。

そしてこってんぱんにやられる。

 

本題。

 

 

ときどきゲストハウスなんかで旅慣れた人に出会い、自分がボラれにボラれていることに無理くた気づかされることがある。

 

同じルートのバス料金を倍以上払わされていたり、前述のように、滞在中のゲストハウスの宿泊費も数割増しだったりする。

それを知って落ち込む私に、彼らは更に追い討ちをかける。

 

「あんたたちみたいに簡単に騙される人がいるから、後から来る人もボッタくられるんだよ」

 

 

おっしゃるとおりだ。けど、だからこそ初心者なのだ。

 

ガイドブックに書いてある料金はもちろん確認してから臨んだ。

でも『物価の上昇が著しい』などと聞くと「そ、そんなもんかな」と思ってしまうのだ。

ついでに言うなら、ガイドブックの人ですら明らかにボラれていることがある。

 

けどな。

 

ボラれた事実を無理やり知らされたダメージに、更に説教を上乗せしなくても・・・。

私の経験上、熟練者は初心者に優しくないことが多いと思う。

私はもしもこの先熟練者になったとしても、必ずや初心者に優しい達人になろうと心に決めている。

私が熟練者になることは絶対にないと断言できてしまうところがアレだが・・・。

 

とは言え、皆さんにこの場を借りて一言謝っておきたい(あやまってばっかりやな)。

 

日本人がカモられる原因は私たち初心者が担っております。

まことにすまんね。

やかましいわ。

 

 

「海外旅行ははじめて?」 とか 「一人旅ははじめて?」

 

これは海外慣れしていそうな人からちょくちょく言われる言葉。

この質問にはいくつかの含みがあると思う。

 

まず第一に。

 

この質問をかましてくる相手は大抵『ベテランっぽい人』であることが多い。

要するに、すでに完全なる上から目線なのだ。

ひょっとすると質問というより嫌味なのかもしれない。

「あんた、初心者丸出しでイタイわ」的な。

 

で、この質問に対して私は、「まぁそのようなものです」 と答えることが多い。

 

もちろん内心は

 

てか、やかましいわ。 違うわ。

確かに慣れてはないけど、はじめてではないわ。

 

と、ご立腹中だ。

 

 

でも…

 

残念ながら、このような質問をされるには当然それ相応の原因があるわけで。

 

私の場合はまず旅立ちの空港からテンパっていろいろやらかす。

とにかく非日常なので、緊張と「はしゃぎ気味」なのとで所作に落ち着きがなくなる。

 

 

高いし買わないくせに、毎回土産物屋などをはしゃぎながら一通りチェックする。

自動チェックイン機などの先進機器が意味不明で、棒でつつく。

トイレで困ることがわかっているのに、ついつい窓側の席を所望してしまう。

手荷物検査でちょいちょい引っかかり、時々何か捨てられる。

金属探知機のゲートを、バックパックかショルダーバックのどちらかを身に着けたままくぐろうとする。(そんなマヌケはなかなかいないので目立つ)

イミグレーションでは失笑を買うほどビシッと「きをつけ!」。

空港内で英語でアナウンスがあると、緊張のあまり顔が引き攣る。

そして、近くに日本人を発見すると、「今何て言ってました?ね?ね?」と縋りつく。

「通路側の席にすれば良かった」との不安から、乗り込むまでの短時間に何度もトイレに通う(めっちゃ緊張しているように見える)。

またもや図々しくもビジネスクラスの列に突進して厳しくたしなめられる。(死にたくなる)

機内で、旅慣れたふうを装って読書し、酔う。

機内食のパンを『非常食』に持ち帰る。その際にマーガリンまで持ち帰り、液状化させる。

 

海外旅行を何度かしたことがある人ならまずやらないような失敗を必ず1回はしてしまう。

 

 

けど、私は言いたい。

 

きっと、また翌週にでも旅行に行けるなら、これらの失敗を生かせると思うのだ。

でもせいぜい年に1回~2回では、次までにキレイサッパリ忘れてしまうのだ。仕方ないのだ。

 

一度くらい「いいえ。そこそこ一人旅してます」と返してやりたいものだが、「この人、アホなのかしら?」と思われるか、もしくは「ぷっ。見栄張ってはるわ」と思われるのがオチだから言えない。


 

私はきっと死ぬまで中身も外見も『初心者』からは抜けられないのだろう。

これからも「海外は初めて?」と優越感混じりで言われ続けるのだろう。

はいはい。言ってなさいよ。

インドネシア・ジャワ島。
プランバナン遺跡の近く、ジョグジャカルタの町へと向かった。

三軒目の宿にも「Full」と断られ、しおしおと出てきたところで客引きに声をかけられた。
宿探しに暗雲立ち込めまくりなので、素直について行くことにする。
迷路のような路地を歩いてたどり着いたロスメンは、水シャワーはつらいが明るく清潔だったので、そこに決めた。
二泊分の宿代を支払い、荷物を置いてベッドで寛いでいると、廊下から日本人男性(60歳オーバーらしき)の大きな声が聞こえてきた。

「高い、高い!エクスペンシブ! ディスカウント!もっと!」


おぉ…。あれはヘタレ旅行者の天敵、『旅の達人』だな。きっと。
しかも、私が最も苦手とする『やたらと声がデカイうえに説教口調で話が死ぬほど長いタイプ』に違いない。
うっかり顔を合わせて説教を喰らわないよう細心の注意を払わないとな。

と、ひそかに気を引き締めた。


それにしても、おっさん旅行者は日本語が全く通じない相手に対してガンガン日本語で話しまくるのはなんでなんだろう。
んで、どういうわけか相手にかなりの精度で伝わるのはなんでなんだろう…

あのテクニックはぜひとも身に着けたいものだ。 ご教示願いたくはないけど。



おじさんの値下げ交渉(攻撃)の相手は、さきほど私の相手をしてくれたイケメンのおにいさんのようだ。
「8にまけろ!いや、むしろ7だっ!」「9で勘弁してくれ」という攻防は延々続き、宿のおにいさんはもはや半泣きっぽい。
(ちなみに、8とは80000ルピアのことで大体800円くらい)


「いったいいつまでやってんだyo! …てか、やっぱり達人は怖ぇなぁ」

と、身震いしつつ気配を消していると、突然私の部屋のドアがノックされた。



…毎度のことながら、これはすっごく嫌な予感がしますね♪


しかし私が今部屋にいるのはバレバレだし、今出なかったらイケメンのおにいさんに確実に『トイレに篭り中』断定されるので、しぶしぶドアを開けた。

ドアの外には予想通り、ほぼ半泣き状態のおにいさんが立っていて
「このおっさんにあんたの部屋代がいくらなのかを教えてやってほしい」と懇願された。
おにいさんの後ろから「8だ!いや7だ!」と叫んでいた達人だったが、私の顔を見ると
「お、日本人か。あんた1泊いくら払った?」
と、挨拶も抜きに尋ねてきた。

「は、はぁ…。10払いましたが…」と答ると、達人はくるりとおにいさんに向き直って
「OK。9でいいよ。とりあえず2泊ね」と告げた。
おにいさんはやっとこの戦いを終えることができたことで安堵の表情になって私に礼を言い、おっさんを伴って去っていった。

どうやら達人たる者、人よりも安ければあっさり納得がいくらしい。

…って、おいおい。
達人よりも多く支払っていることを否応なしに知らされた私の傷心へのケアは無しですか。二人とも。

まぁ、こちらのスキルが足りないんだから仕方ないことか…。


それにしても、達人の値下げ交渉の粘り強さにはいつも感嘆させられる。
彼らは50円とか100円とかのために、人間関係も時間も棒に振り放題だ。
かつて、日本一周中の女性二人組と一緒にバス移動したことがあったが、彼女たちは30円のために20分ほど喧嘩腰で戦っていた。
私はものすごいケチだけど、決してそこまでできない。
だからこその達人なのか?



しかーし。私の災難はこの程度では済むはずもなく、そのあと達人の訪問を受け、食事の誘いを受けることになる。
反論などしそうにない気弱さと『説教し甲斐』のある素人オーラを併せ持つ私の魅力を一発で見破ったらしい。
そう。達人は初心者に説教するのが大好きなのだ。
しかし、あいにく私は達人の説教は大嫌いなのだ。
しかし、悲しいかな、徹底して「NO」と言えない性格なのだ。

この後マクドナルドで小一時間ほどの説教を喰らったことは言うまでもなく、さらにその大声と口調から周囲の人たちに「あの婆さん、旦那に死ぬほど叱られてるぅ」というぷっくすくす的な視線に晒されまくったのだった。

割り勘で済んだことだけが救いだが、もうマジで踏んだり蹴ったりですわ。


達人は、旅先で会った一人旅の人と共に行動することが大好きらしく、この先一週間は私の観光プランに便乗するつもりだとのたまった。
もはや気絶しそうだった。

達人に貼り付かれて一日棒に振った日の翌朝、彼は全身に蕁麻疹が出たとかで病院へ行った。
私は速攻で荷物をまとめ、ガイドブックのコピーと「先を急がないといけなくなった…すみません…うんぬん」と書いたメモを達人の部屋のドアノブに掛け、逃走したのであった。


達人よ、あなたが謙虚になるか、私が達人になったらまた会いましょう。See you。