天気予報で最高気温が18度だと言っていた。動物園で勤めていた頃なら半そでTシャツ1枚で過ごしていただろうな、今日。

ダメ母は今日も夫が作ってくれた弁当を持って、出勤する。
マイちゃんの世話もごみ出しも夫がしてくれた。

わが社では、1月末から、×Lスケジューラーなるソフトでシフトが組まれている。ここ数年間の売上、予算から計算して何月何日のいついつの時間帯には何人のスタッフが必要か、はじきだすソフトらしい。
その結果、著しく最低限のスタッフで働くことになったのである。

今日の早番は、チャックンとダメ母、2人だけである。
朝礼で自己評価表なるものをもらう。
「玉田さん、自己評価表初めてだっけ?」
「はい」
「これは、各項目に5点満点でチェックをいれるの。3点が、まあ可もなく不可もなくといったところで、5点がずば抜けているってこと」
「自分で全部5点にチェック入れていいでしょうか?」
「………」
「わたし、自分に甘いんで」
「……まあ、これ以外に店長評価っていうのもあるから。自己評価提出して、店長が評価つけて、で、お話するわけ」
「え……お話するんですかあー…」
チャックン、視線をはずして
「…はい、これ新しいシフトね」
「店長まちがえてる。わたし16日懇談で休むって言ったのに、15日に網掛けして16日出勤にしてる」
「はい、じゃあそれ言ってね…シフトにコヤマ君て載ってる?」
「来週分にはないです」
「え…そう」
…………
掃除が終わる頃、チャックン曰く
「コヤマ君キャンセルだって」
最近、求人に応募して採用になった人だそうだ。たぶん他も受けてて、採用されて、うちを蹴ったんでしょう。
「すごい男前だったよ。すっごい男前」
「えー。見たかったなあ」
「まー、僕も男前だけど」
「…それっぽいです」
「ほんと?」
「ほんとです」
「じつは俺…ジャニーズ事務所受けたことある」
「それっぽいです!…おねえちゃんが写真送ったんですか」
「…おかあさん。写真3枚送った。私服の写真と、制服の写真…」
「それ、まずいです」
「…制服まずい?まずいか。あと、家族でごはん食べてる写真」
「それもまずいです」
「まずい?まずいか。ま、その写真の書類選考で落ちたんだけど…」

小学生の制服を着たチャックンの写真、家族でごはんを食べているチャックンの写真を思い浮かべた。
チャックンはきっと、おかあさんの自慢の息子だったにちがいない。
チャックンはイケメンである。少なくとも光ゲンジの山本くんには負けていない。送る写真はもっと選ぶべきだった。いや、1回でめげずに、もう3回くらい送るべきだったと思う。

じつはうちの店はフルタイムスタッフはイケメンで揃えてあるのである。
大阪研修のときも、
「四国店のメンズたち…トトくんは違うけどなあ」
と、言われていた。(トトくんは学生バイトです)

井内さんからチャックンは22歳だと聞いていたけれど24歳だった。
(同じく土筆田は29歳と聞いていたけれど今年28になるのだそうだ)
この店に3年勤めているそうだ。いまどきの若者風でここで
「3年いるのは、すごい…」
「そうかな…まあ。俺もだいぶやられたけど」
「…そうでしょうね」
誰にだいぶやられたのか、聞きたかったけど、やらなきゃいけない仕事があったので、聞かなかった。

その後、中番のトワさんが来て、みんな忙しく立ち働くなか、チャックンに声をかけられた。
「俺、玉田さんに聞きたいことがあったんだ。白島動物園てあるでしょう。行ったことある?」
「はい」
「あそこ、どんな」
「熊の赤ちゃんとかだっこさせてくれますけど」
「ゴリラおる?」
「オランウータンはいましたけど、ゴリラはいません」
「いま、この県にゴリラおらんのん?」
「いません。この近辺では砥部動物園にいます」
「行った。でもあそこのゴリラ、おとなしいでしょ。俺、ゴリラがガーッと暴れたりするのが見たいんだよ」
「…ゴリラといえば、上野動物園です。上野動物園のゴリラ舎はゴリラのディズニーランドみたいですよ。暴れてるかどうかわかりませんが、いきいき動いてます」
「マウンテンゴリラおる?」
「…ローランドゴリラだったと思います」
「マウンテンゴリラが見たいんだよ」
…たいへんなゴリラ通であった。

昼休みに、外でお弁当を食べた。
おかずはとんかつと卵焼きだった。卵焼きの中にはほうれん草も入っていた。
朝っぱらから マメな夫である。
食べている途中で、奥歯に被せている銀がはずれた。

仕事をあがってから、歯医者に行った。
麻酔を打った。
頭の中で、ジャニーズとゴリラがぐるぐると回っていた。