先月の『傷跡の治療 アフターケアの重要性~傷跡は育てるもの~』の記事で、傷跡にハイドロコロイドを貼付していたら、傷跡が綺麗になった事例をご紹介しました(記事はコチラ)。これはハイドロコロイドを貼ることによって、圧迫の効果と湿潤環境がもたらされた結果だと考えられます。
アフターケアの目的で傷跡に何かを貼る目的として、圧迫と湿潤環境を保つ以外に、『減張』という目的があります。傷跡を綺麗にするためには、この『減張』ということがもうひとつの重要な要素になります。
もう少し詳しく説明します。
傷跡というのは、周りから引っ張られると幅広くなっていきます。この引っ張る力のことを『張力』と呼びますが、その張力をいかに減らすか(=いかに減張するか)ということも、傷跡を綺麗にする大事なポイントです。例えば、曲げ伸ばしする関節、腹圧がかかるお腹など、傷跡に張力が加わりやすい部位では、皮膚の表面を縫うだけでは傷跡の幅が広くなっていくことがあります。形成外科では、この傷跡にかかる張力を減らす目的で、皮下縫合をしっかりと行います(これを『減張縫合』と言ったりします)。そして、さらに術後に皮膚表面にテーピングをしっかりと行うことで、内側からも外側からも減張の効果がもたらされ、最終的に綺麗な傷跡になるのです。
治療例をご紹介します。
下の写真は、美容外科学会の重鎮で、私の恩師でもあるいちだクリニックの市田正成先生が書かれた教科書『スキル外来手術アトラス』(文光堂)からお借りしたお写真です。
まず、瘢痕形成手術を行います。
術後に厳重なテーピングを半年も続けることで、良い結果が出ています。
繰り返しますが、テーピングには、傷跡を綺麗にするための『減張』という重要な働きもあるのです。
形成外科では、減張を目的とした縫合を行った上で、さらにテープ固定をしっかりと行うのですが、他の科で手術を行った場合や怪我をして救急外来で縫合をしてもらった場合など、減張を目的とした縫合が行われていない場合には、部位によっては傷が広がりやすいことが予想されます。ですから、そういった場合にはアフターケアのテープを幅広く貼ることで傷跡にかかる張力を減らし、傷跡が幅広くなることを予防する必要があります。最近の私のブログ記事を読んで頂けましたら、傷跡の部位、傷の処理の状況によって、アフターケアの方法が変わってくることがご理解いただけたと思います。