白石先生の御発表の中でも特に印象深かったのは、「人工物を用いていかに下垂乳房を再建するか」というお話でした。「下垂乳房は、インプラントでの再現は不可能」というのが多くの形成外科医の共通認識です。一般的に、その場合どうするかと言うと、①下着をつけた状態で左右がそろう位置でインプラントを留置する、②下着を外した状態で左右の見た目のバランスが合うように、インプラントを低めに留置する、③下垂した健側の乳房の挙上術を行い、下がった胸を引き上げて左右のバランスをとる、この3つの選択肢があります(詳しいことは私の過去記事をご参照ください)。ところが、白石先生は、独自の工夫で、健側の乳房下溝と再健側の乳房下溝をそろえつつ、下垂した乳房を再現されています。
白石先生の御了解を得て、手技のポイントを私なりにまとめてみました(白石先生、お忙しい中、誠にありがとうございました!)。
(以下、表現がちょっと専門的でわかりにくいと思いますが、だいたい大筋で言わんとしていることは分かって頂けるのではないかと思います。)
1.エキスパンダーの皮膚は、健側の皮膚の長さと同等になるまで拡張する。健側における基準点から乳房下溝線までの距離と対称になるよう患側にラインを設定・マーキングする。この設定ラインが患側の新しい乳房下溝線になる。
2、設定ライン上の脂肪に真皮が出る程度まで割を加える。健側のラインがはっきりしていない内側部分は、割を控えめに入れることで調整する。
3、割を入れた下側の皮膚を健側の乳房下溝線と高さが揃うように胸壁に縫合固定する。
4.お腹の皮膚は使わない。お腹の皮膚はお腹に戻す。お腹の皮膚を使うと後戻りの原因になる。
5.閉創が終わったら、抜管(麻酔の管を抜くこと)前に座位または座位に近い状態まで上半身を起こし、インプラントが下垂している状態でテーピングを行う。仰臥位に戻ってもインプラントの位置が保たれるように、しっかりとテーピングで固定したのち、仰臥位に戻す。
2017年5月27日に名古屋で開かれた白石先生の講演会をお聞きして、上記に抜けている部分に気付きましたので追記します。形成外科の先生向けですので、専門用語が並びますが、すみません。
以下追加
6.カプセルは可及的に切除する。
7.胸壁固定の際、皮弁側の拾う組織は浅筋膜(ラインを深く出したい場合は真皮をかける)。
8.胸壁固定際、固定部位は肋間筋(軟骨ねらってとめていない)。
8.大胸筋下の上方剥離は鎖骨近くまで。
9.陰圧ドレーンの陰圧は座位でテーピングが終了した後に開始。
10.IMFを止めるときはディンプリング防止の為、なるべくスクエアに糸をかける(バイクリル)。
11.NSMの場合はPMTを使用している。
12.テーピングは1週間続ける。
以下、図解してみました。
図ではABCの3ヵ所のみ計測したように表現していますが、実際はその間ももっと計測して、健側と同じ距離でラインを描いていくのだと思います。
追記
健側横幅の最長となる長さも計測し、患側の対応する部位が同じ長さ分拡張されているようにする。
上記の方法で、割を入れて薄くなった真皮の部分で皮膚が下方に折れ曲がり、その上にインプラントが乗ります。するとインプラントの下端は真皮の折れ曲がりよりも下に来ることになり、下垂した乳房が再現できるというわけです。座長の寺尾先生(駒込病院の寺尾先生の記事はこちら)もコメントされていましたが「乳房下溝線を胸壁に固定するという概念を捨てる」という点が、これまでと大きく異なるポイントだと思います。
この方法の前提として、健側と同じだけの十分な長さが確保できるまでエキスパンダーで皮膚が拡張されていることが必要です。白石先生はこの方法を始めて3年が経過するそうですが、今のところ良好な結果を維持されているそうです。もちろん、10年先15年先も下垂が保たれているかは、今後の経過を見る必要ありますが、少なくとも人工物再建の新しい可能性が広がったことは間違いありません。
ちょっと、その説明ではよくわからんよ、もっと詳しく正確に知りたい!そう思われた形成外科の先生は是非、次回の白石先生の学会発表に注目です!!