先日のブログで、インプラントによる乳房再建に保険が適用されるようになりそうだ、とのニュースをお知らせしました(⇒詳しくはこちら)。
このニュースに関連して、先日東京で行われた日本形成外科学会総会で、
第一回目の「乳房再建エキスパンダー/インプラント講習会」が開催されました。
今回の講習会では、保険が適用される新医療機器としてエキスパンダー及びシリコンインプラントを導入するための基準などが示されました。
しかしながら、始めにお知らせしておきますが、残念ながら、今回の講習会において、保険適用を待っている方々に良いニュースとしてお知らせできるものは実質的に何もないと言わざるを得ません(あえて言うなら、保険適用の方向性が定まっているという点は良いニュースでしょうか)。
と言いますのは…
まず第一に、実際に保険が適用になる時期については、まったくの未定となっています。厚労省とメーカーの間での価格交渉に目途が立っていないようで、諸々の環境が整うには、まだ相当の時間がかかると思われます。目途がついた時点で具体的な開始時期が明らかになるものと思われますが、超最短でも今年の後半がいいところではないでしょうか。
第二に、保険適用が開始されるとしても、保険適用が認められるのは、後述する基準に従って認証を受けられた施設(病院)に限られるということです。そのため、個別の施設が認証を受けるための手続にもまた時間がかかることになると思われます(その意味でも、保険適用の開始時期にはまだまだ時間を要しそうな気配があります)。
今日は、上の第二の点に関して、認証を受けられる施設(病院)の基準についてお知らせしたいと思います。
その前に、ついでに述べておきますと、「乳房再建に用いる皮膚拡張器(ティッシュエキスパンダー)」使用基準と「乳房再建に用いるゲル充填人工乳房(ブレスト・インプラント)」使用基準、要するに、エキスパンダーとシリコンインプラントそれぞれについて定められた使用基準は、日本形成外科学会と日本乳癌学会の承認を得て、日本オンコプラスチィックサージャリー学会を中心に作成されたようです(上記リンク先を参照してください)。
その内容については、適用基準や患者の選択基準、患者の除外基準などが詳細に定められていますが、解釈によっては見解が分かれそうな表現も含まれており、会場でも議論を巻き起こしました。詳細をここで述べると問題になりそうなものもありますので、ここでは敢えて適用基準や選択基準については記載しません。個別の患者さんで適用とされるかは、最終的には主治医の判断によるところが大きい場面もありそうです(つまるところ、議論はまだまだ煮詰まってはいないのです)。
話を施設の基準のことに戻しまして…
以下では、実際にどこの施設(病院)に行けば、保険を適用した再建を受けられるようになるのか、という、『保険適用となる施設(病院)の基準』について述べることにします。
保険適用が開始される段階では、保険適用される具体的な施設名は、オンコプラスティックサージャリー学会のホームページ等で広く告知する予定だということです。ですので、保険が適用される病院を患者さん自身が見つけるのに苦労はしなくてよくなりそうです。
では、どんな病院で保険適用を認められることになりそうか、ということですが…
①エキスパンダーの挿入について
⇒ 一次再建と二次再建で異なるようです。
(一次再建・二次再建の用語については⇒こちら)
⇒ すなわち、
a)一次再建の場合
講習を受けた常勤の乳腺外科専門医が所属する病院で、
同じく講習を受けた形成外科医(非常勤でもよい)と連携して手術する施設。
b)二次再建の場合
形成外科専門医が常勤している施設で、
乳癌の経過観察を行う乳腺外科医と協力体制がとれている施設。
②シリコンインプラント入れ替えについて
⇒ 形成外科医専門医が常勤でいる施設。
この基準からすると、例えば、木沢記念病院では、常勤の乳腺外科専門医と常勤の形成外科専門医が緊密な連携体制を構築していますので、上のいずれの基準も満たしていることになり、上のいずれの場合にも保険適用があるということになりそうです。他方で、私が他院に出向いて手術する場合(すなわち非常勤の場合)には、出向いて行った先の施設に常勤の乳腺外科専門医がいれば、一次再建のエキパンダー挿入であれば保険適用で行えるということになります。現在連携関係のある村上記念病院や岐北厚生病院でも、保険適応でエキスパンダーの挿入(一次のみ)は行えると言うことになります。
これらの基準は3年ごとに見直される予定だそうで、順次、施行できる施設は増えていくと予想しています。講習会では、「今回の基準の趣旨は、どこの病院でも、誰でも彼でも、簡単に保険適応で人工物による乳房再建を行えるようにしようというものではない」とはっきり言われていました。個人的な推測ですが、おそらく学会としては、誰でも彼でも簡単に取り扱えるようにしたことでトラブルが続出した場合、「やっぱり人工物は危険だ!取り扱いを見直そう!」なんてことにならないように、慎重に運営してきたいという思いがあるのだと思われます。ですから、当たり前ですが、形成外科医には長期的にフォローアップしていくことも求められていますし、保険を使用した場合には学会にその使用を登録することが義務付けられています。
保険適用を待ち望んでいる方々からすれば、なかなか進展しない現状には忸怩たる思いを抱かれると思いますが、今回の基準にも表れているように、学会としては、「急いては事を仕損じる」という慎重路線で確実に事を進めるという姿勢のようです。乳腺外科の先生方からは不満の声も上がり、それも非常によく理解できました。ただ、医療費抑制の風潮の中にあって、保険適用を実現するための大きな一歩を踏み出していることには間違いありません。必要な議論をないがしろにすることはできませんし、きちんとした体制でスタートさせることは患者さん全体の利益にもなることです。その意味で、ある程度の時間がかかることも理解できることです。ただし、待ちわびている患者さんが大勢いらっしゃるわけですから、学会としては、その患者さんの気持ちに思いを致し、可及的速やかな議論の収斂を図ってもらいたいと考えています。
次回は、保険適用となる具体的な機器(エキスパンダーやシリコンインプラントの具体的な製品型番)の種類についてお話する予定です。