sideキョ-コ

最近たくさん夢を見るようになっった。夢の中にはいろんな人たちが出てくる。でも、私はその人たちを知らない。きっと、失った記憶の中にいる人たちなんだろう。

「おかあさん!おいていかないで!」
地位い紗菜少女が細身で背の高い女性の背中を追いかけながらそう叫んでいる。ツイン手-ルの振り乱しながら追いかける少女。たぶんそれは私なのだろう。一生懸命追いかけるのに、その女性は止まることも振り向くこともない。少女は妻付いてb、地面に転び、それでも「おかあさん!!」と呼びかける。でも、その「女性は振り替えることはなく、その背中はどんどん遠く小さくなっていく。

「しょ-ちゃん、大好き!!」
ツイン手-ルの少女は満面の笑みで目の前にいる少年にそういう。少年は面倒くさそうな表情で少女をまともに見ようともしない。
「ショ-ちゃんは私の王子さまなの!!」
少女は少年のそんな態度を器に止めることなくずっと(^ω^)かけている。その少年がみるみる成長して金髪で背の高い青年へと変化する。少女は「やっぱりしょ-ちゃん格好いい!」と身体中からは-と間-区をたくさん飛ばしながら青年に呼び掛ける。青年は少女に背を向けて立ち去ろうとする。
「しょ-ちゃん、どこ行くの??」
そう問いかける少女に青年は振り向いて
「ふっ、地味で色気のねえ女。」
そう吐き捨てるようにいうと少女に背を向けて去っていく。少女は驚き目を見開いて一瞬固まったがすぐに叫ぶ。
「しょ-ちゃん!!」
でも、その青年は二度と振り向くことはない。

少女はいつの間には私の姿になっている。でも、今より少し若い頃の私のようだ。私からは想像できないような形相で青年が去っていった方をじっと睨んで強く拳を握りしめている。

「復習してやる!!」
私あ自分の大きな声で驚いて目が覚めた。はっとして辺りを見回すといつも眠っている敦賀さんの寝室。大きなベッドの上で私は勢いよく体を起こした状態だ。慌てて隣にいる敦賀さんを見ると、私が行きなり体を起こしたことに驚いて起きてしまって、まだぼんやりとした目で私を見ている。
「どうしたの?夢でも見た?」
寝起き独特のかすれた声で、それでも優しく問いかけてくれる敦賀さん。
「ご、ごめんなさい。おこしてしまいましたね。」
「大丈夫、それはいいんだ。いい夢じゃなかったみたいだね?」
敦賀さんはいつも私に優しくしてくれる。こんな時でさえ不用意に起こされてしまったことを攻めるのではなく、私のことを気遣ってくれる。本当に優しくて素敵な人。私が返事に困っていると敦賀さんは体を起こして私を後ろからそっと抱き締めてくれる。安心できる大好きな敦賀さんの香りに包まれて、固くこわばっていた体も、爪のあとがつくほどに握りしめていた拳もふっと力が抜けて敦賀さんに身を委ねてしまう。耳元で敦賀さんの穏やかな声が響く。
「まだ夜中だね。落ち着いたならもう少し横になっていようよ。」
敦賀さんはそのまま体を倒して横たわる。私の体も一緒にた折れ込む。敦賀さんがそっとブランケットをかけてくれる。後ろから私の体を抱き締めたまま寝る体制になる。私は敦賀さんのうでのなかがとても心地よくて容易く眠りに誘われる。敦賀さんの手が私の紙をゆっくり優しくなで始めると、私は眠気に抗うこともできずに眠りの世界に旅立ってしまう。本当に幸せなひととき。こんな日々がずっと続けばいい。ずっと続いてほしい。私の体をすっぽりと納めてしまうこの大きくて頼れるこの人のそばにずっといたい。この人にずっとそばにいてほしい。そんな贅沢な気持ちが抑えても抑えても溢れだしてくる。こんな気持ちは贅沢なのかしら。許されないことなのかもしれない。でも、もう止めることはできない。
サイド蓮

「蓮、京子ちゃんはどうだい?」
移動中の車の中で助手席に座る社さんが何気なく訪ねる。
「どうって、時に変わったところはないですよ。」
「おいおい、そんな他人事みたいに言うなよな。京子ちゃんを、今は大変な時期だろう?」
「そうですね。すみません…。」
「なんだよ、そっけないなぁ。」
「そうですか?」
「そうだよっ!喧嘩でもしたのか?」
「そんなことしませんよ。」

そう、喧嘩などしていない。帰りの遅い俺をいつも笑顔で出迎えてくれる京子ちゃん、彼女の存在がゲストハウスにあるだけで暖かくてほんわりした空間になっている。俺にとってとても居心地のいい空間。暖かい食事とゆったり寛げる浴室。お日様の匂いに包まれるベッド…。そして彼女の可愛い笑顔。何もかもが俺のために用意されるもの。その居心地のよさと幸福感を味わいながら、俺は少しずつ居心地の悪さを感じ始めている。京子ちゃんは俺の為に色々としてくれるが、俺は彼女に何をしてあげる事が出来ない。家で、仕事先で笑顔を振り撒きながら過ごす彼女は、実は失った記憶を取り戻すという有名無実な作業を続けている。何をどうするべきかというマニュアルもなく、その是非さえも解らない。なのに彼女は健気に自分の記憶と向き合っている。隣で眠っている彼女が時々夢にうなされていたりする事に気付きながら、気付かず寝ているふりをするのが精一杯だ。寝返りを打つタイミングで抱き締めれば、彼女は一瞬体をこわばらせて、その後すっと力が抜ける。そして、スースーっ規則正しい息遣いが聞こえてくる。その穏やかな寝息にほっと胸を撫で下ろす俺。そんな繰り返しに俺の方が『もうやめてくれ!』と叫んでしまいたくなる。
サイドキョーコ

敦賀さんはと別行動をとることが増えてきた。何時までも敦賀さんはに頼ってばかりもいられないからきっとこれはいい事なんだと思う。セバスチャンは変わらずにマネージャーについてくださるし、一緒に動ける時には敦賀さんは達と一緒に移動するから、独りぼっちになってしまった訳じゃない。


敦賀さんは流石に芸能界のトップに君臨している人なので、あっという間にスケジュールはびっしり埋まって行った。社さんの配慮で少しずつセーブはしているらしいけれど、殺人的なスケジュールはだと思う。何とか晩御飯だけは私と一緒に食べさせたいと、社さんの尽力で敦賀さんはの仕事がてっぺんを越えることはない。

私は、記憶を失う前には料理も色々とやっていたらしく、資料の中にあった私の直筆だというレシピ本を見ながら料理に取り組むようになった、大将にいただいた包丁はしっくり手に馴染んだ。キッチンはどんどん私の使い勝手のいい環境になっていった。このゲストハウスに『最上キョーコ』がいる実績を積み上げるように、私はスケジュールのゆとりを利用して家事に勤しんだ。

記憶を取り戻すと決めてつけていただいたカウンセラーさんに教わった。無理に思い出そうとせず、今の環境に慣れること。自分の中にある記憶を無理矢理引き出すのではなく、出てきやすくすることが大事なのだそうだ。日々の習慣や癖など、残っているものがあれば出来るだけ素直に受け入れられるようにゆとりを持つことをも教わった。

料理や家事をしていると確かに落ち着く感じがする。何気なく畳む洗濯物等も意識せずに同じ形や大きさに積み上がっていく。以前からこうしていたんだと思うとなんとなくくすぐったい。芸能界という特集な環境に身をおきながらこんな穏やかに流れる時間を持てる私はかなり贅沢なのだろう。それもこれも私を支えてくれる皆さんのおかげ。そんな皆さんの為にも私自身の為にも早く記憶が戻って欲しいと願ってしまう。『京子』としてお仕事をさせていただいて、キョーコを探す私。きっとうまく行く、そう信じて進んでいこう。敦賀さんはと過ごせる時間が少しずつ少なくなって寂しいけれど、こうして帰りを待つ事さえ楽しく感じられるから。