大切なもの3がとうとう100話に到達してしまいました。

えらいことです。


更新遅くなる&話が長くなる&どんどん続く


あかん、なんの設定もコンセプトもなく、思いつきでワクワクしながら書き始めたのがほぼ1年前。それからよく続いたもんだとはおもうんですが、まだまだ先が見えません。


キョーコさんは相変わらずピンチですが、このまま大切なモノは4へと続くのです。


もちろん、目指すところはハッピーエンドですから!!!!!!


がんばります。

過呼吸発作


皆がバタバタとキョーコを自室に運んでいる間にセバスチャンが手配した宝田家の主治医はそう説明した。精神的な不安から自律神経の制御がきかなくなり、呼吸のペースが乱れ、息を吸うことはできてもはけなくなる。極度の禁漁状態での発作なのだと説明を続けた。


医師の説明を聞いた者は皆、思い当たる事が嫌というほどあるので納得するしかできなかった。救いは命い別状がない事と、精神的に落ち着けば回復する事。手軽に対処法があるという事だろうか......


「今のキョーコちゃんのストレスを少なくするなんて無理じゃないか......」


あきらめるような溜息とともにつぶやかれた社の言葉に奏江も同意を示す。記憶がないという状況が何より大きなストレスなのだ。しかも、今のキョーコは失った記憶を取り戻す作業を始めている。その特殊で手探りの作業も一般的には想像できないほどのストレスになっているだろう。


セバスチャンが伴って入ってきた医師に奏江はキョーコが倒れた経緯を説明し、医師は奏江の説明と診察時点でキョーコのバイタルサインに異変がな位7事から『過呼吸発作』と診断した。


「女優さんですから、ダイエットとか大変だとは思いますが、医療関係者からすれば少し痩せすぎですね。栄養のあるものをしっかりとって、適度な運動なども心がけてストレスを貯めこまないようにさせてください。」という医師のアドバイスは今のキョーコにはとてもむずかしいタスクに思えた。


「敦賀さん、いったいあの子に何をしたんですか?」


奏江の突き刺すような視線と言葉は蓮を直撃する。


「あの子は大抵のことには動じない。でも、敦賀さんの事になるとほんの些細なことで一喜一憂するんです。それは記憶を失う前からずっと。記憶を失ってからも根本的にその辺りは変わっていませんでした。だから、あの子がストレスを貯めこむのもパニックを起こすのも、敦賀さんとの間に何かがあったとしか考えられません。違いますか?」


「そ、そんな....俺は......」


蓮は奏江の言葉に言い返す言葉を見つけることができずに頭ってしまった。そんな蓮の姿に奏江は大きくため息をついて続ける。


「ちゃんと否定出来ないのは肯定と見て問題無いですな。」

「......」


「ふっ、情けない。社長。こんな頼りない人のそばにあの子をおいておくことはできません。私が連れて帰って一緒に生活します。あの子は私が友達だったって事は忘れていますが、私はラブミー部での活動も同じですからサポートしやすいと思います。何より、無駄に心をかき乱される事は少なくなると思いますから!!」


「そ、そんな......」

蓮の小さな抗議の声。蓮の動揺は思いの外大きいようだ。さっきまでは自分からもう限界だなどと言っていたくせに、いざ取り上げられるとなると手放したがらない、本当に小さなわがままな子供そのものの蓮。


「琴南くん、ちょっと待ってくれ。最上くんの件は確かにそうなんだが、君の提案を実行すると廃人になる奴が一人いるんだ。」


ローリーは煙草の煙をゆっくりと吐き出しながら手に持った葉巻で蓮を指す。


「そんなの自業自得です。知ってか知らずかここまであの子を追い詰めておいて、自分が被害者た1わりもいな顔してるんですもの。あの子の苦悩なんてきっと1割も知らないし解らないと思いますから。」


「琴南さん、それくらいにしてやってくれないかな。琴南さんの気持ちもよく解るけど、俺にとっては蓮も大事な弟分なんだよ。」


「社さん......」


「きっとね、キョーコちゃんが倒れたのは蓮のヘタレ極まりない」態度のせいなんだと思うよ。でも、それが蓮で、だから蓮なんだと思うんだ。俺はそんな蓮だから憎めないし、」キョーコちゃんもそんな蓮だから、こいつの些細な変化に一喜一憂してるんじゃないかな......」


社の穏やかで優しい言葉。キョーコの事も蓮の事も大事で可愛いという兄、社。社にそんなふうに思われている二人を羨ましいと感じ、少しだけ距離の遠い自分が少し寂しいと思ってしまった奏江。


「琴南くん、最上くんが目を覚ましたらじっくり話をしようと思う。蓮にも言い分があるだろうから、少し時間をやってくれないか。最上くんが蓮と一緒にいることを少しでも拒んだらその時は全面的に最上くんのサポートを君に一任する。その時はよろしく頼むよ。


「....はい。」


蓮はあからさまに安堵の溜息を吐き、奏江はそんな蓮を怒りを込めて睨みつける。社はこの状況から逃げ出せない自分を哀れんで天井に視線を向けた。


ローリーは葉巻を咥え、深く吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出した。


「蓮よ、正念場だぞ。ここで琴南くんにダメ出しされるようでは最上くんを任せる訳には行かないからな。俺は愛の伝道師だから、お前を応援してやりたいと思うが、最上くんを幸せにできないようならお前に最上くんの隣に立つ資格はない。さぁ、どうするよ、蓮?」


蓮にとって、最大の試練の始まりだった。

side ローリー


 連の話を聞いているときに老化が騒がしくなった。聞こえてくるのは社と....あれは琴南君の声だ。


「キョーコっ!しっかりしなさい、キョーコっ!聞こえてるの?キョーコっ!」

「琴南さん、とりあえずおちついて。」

その声に連も慌てて立ち上がり、俺たちは廊下に出た。


まず目に入ったのは最上君を抱き上げている社。そしてそれを心配そうに見つめる琴南くんの姿。その緊迫した雰囲気に驚いたが、俺の前に立っていた連は絶対零度のオーラを出している。こいつのこういうところは記憶をなくす前とちっとも変ってはいない。いつもならそのオーラに周りはみな凍り付くのに、それ以上に冷たくてかたい声が連を釘づけにしてしまった。


「緊急事態だ。」


矢代のその言葉は連を直撃し、絶対零度のオーラさえも霧散させてしまった。さすがだな、俺の選んだ男はやはり出来る男のようだ。

社は連の後ろに立っている俺に軽く頭を下げてから最上君を彼女の自室に運んで行った。この緊急事態でそこまで状況判断できる社を俺はうれしく思った。琴南君もちょこんと頭を下げて矢代を追って階段を上がって行った。彼女も大物だと実感する。

反対に俺の前に立っていた連はオーラが霧散してしまった後はただの案山子と化していた。社の行った先をじっと見つめたまま突っ立っている。その後姿には困惑が満ちている。実はこいつが一番社会性が欠字しているのだろう。このまま突っ立たせておくこともできないので俺は連の肩にポンッと手を置いた。


「蓮、いくぞっ。」
「…」
「おい、蓮!」
「…っ、はい。」

俺に叱咤されて連はやっと動けるようになった。ったく、図体ばっかりでっかくなりやがって、いつまでたっても手がかかる。最上君は多分俺たちの会話を聞いてしまったのだろう。今の彼女にとっては強すぎる衝撃だったに違いない。今、俺の目の前で不幸を一身に背負ったような姿をさらしている男の受けた衝撃の何倍もの衝撃に耐えきれずに、最上君は倒れてしまったのだろう。そんなことは容易に想像がついた。その事実をこいつがちゃんと理解できるのか、それは解らない。だが、こいつがそれをちゃんと理解できなければこんな事態は何度でも繰り返されるだろう。それは最上君にとっても、連にとってもよくない事だ。周りの連中にも負担が大きすぎる。さて、どうしたものだろう。


そんなことを考えながら連と共に階段を上がり、最上君の寝室の前にたどり着いた。締め切られた扉を蓮がノックすると琴南君が顔を出した。琴南君はキッと連を睨み付ける。蓮は彼女の迫力に一歩後ずさる。おの隙に琴南君はバタンと扉を閉めて、扉越しに言葉を紡ぐ。


「キョーコは今眠っています。たぶん自然に目が覚めるまでこんまま寝かせておくほうがいいと思います。今敦賀さんに部屋で騒がれると困るので、敦賀さんが立ち入り禁止です。」


「そんな.....、俺は・・・・・」


「この子がこんな事になったのはきっと敦賀さんが原因でしょう?そんな危険な人をやすやすとここに入れるわけにはいきませんから!」


蓮はぐっと息をのみ、反論を試みるがうまく言葉が出てこないようだ。それはそうだろう。自分が俺にこぼした弱音のせいで最上君が今の状況になっているのだから。


程なく今度は社が扉を開けて部屋から出てきた。


「蓮、今はあきらめろ。キョーコちゃんは眠っているし、琴南さんは俺より迫力あるぞ。」

「......そんな......」


「社長、先ほどは失礼しました。」

社は俺に最敬礼で頭を下げる。


「いや、賢明な判断だと思う。ご苦労だった。」

「ありがとうございます。」

「状況説明を頼めるかな?」

「はい。」


俺たちは社から状況説明を受けるためにリビングへ向かった。そこにセバスチャンがやってきた。


「旦那様、ただいまホームドクターの先生が到着いたしました。最上様の診察をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、ご苦労。部屋には琴南君がいるから一緒に話を聞かせてやってくれ。」

「承知いたしました。」


セバスチャンが医師を連れて最上君の部屋へ向かうのを長身の案山子は羨ましそうに見ている。そういうところは子供そのものだなぁ。セバスチャンと医師が入って閉ざされた扉をまだ羨ましそうに見つめる蓮にため息交じりに声をかける。


「蓮、早くこい。」


「......はい」


蓮が立っていた位置からリビングの扉まではほんの短い距離だった。その間に蓮は何度も振り返っては開かれる事のない扉を見上げた。社はリビングへの扉を開けて蓮が中に入るのを待っていた。無理に急かさないのは蓮の動揺が手に取るように解るからだろう。蓮がやっとの事で扉をくぐりリビングに入ると俺も続いて入った。俺が入った後に社が続いて扉を閉めた。バタンという扉の閉まる音に連の体が大きく跳ねて、振り返った蓮はじっと扉を見つめた。社は小さくため息をついて「蓮、早く座れ。」とここで初めて蓮に指示した。


社はさっきその目で見た事をそのまま話し、俺たちはそれを黙って聞いた。