「地球滅亡!?」
まず目についたのはそんな見出しだった。
「NASAの発表によると、巨大な隕石が地球に接近してきており、三日後に衝突するとのこと。隕石の衝突座標などの正式な発表はまだなく、衝突するとその衝撃で人類を含め、生物のほぼ全てが消滅するとのこと。さらに詳しい発表は追って報告するとのこと。」
携帯電話でつないだネットのニュースには、そういった記事が大量に上がっていた。やはり先生の言ったことは本当のことらしい。あと三日。それが残された時間。正直実感がない。自分が死ぬなんてことを今まで考えたことすらない。それは自分がまだまだ若いということが分かっていたからだし、病気もなく、周りの親戚なども、そんな体調が悪いといった人がいなかったからだ。それが突然三日後に死ぬといわれて、それを理解し自分の中でそれを受け止められるわけがない。もはや携帯のニュースの内容はほとんど頭に入ってきていなかったが、少しでもそれが嘘であるということを探すように、俺は必死に携帯のページをめくり続けていた。
「はるとー。おーい。」
目の前を黒い影が通り過ぎる。顔をあげると、そこには太一が立っていた。
「ああ、お前か。」
「全く、さっきから呼んでるのに全然気付かないんだから。携帯でさっきから何してるわけ?」
そう言って画面を覗き込んでくる。
「なんだ、ニュースみてるのか。あまりにも集中してるから新しい携帯アプリでもやってるかと思ったぜ。」
彼はとても落ち着いていた。というより、いつものままだった。
「なんで、そんなに普通なわけ?三日後に死ぬかもしれないのに、どうしてお前はそんなに落ち着いていられんの。」
そう聞かずにはいられなかった。
「どうしてって。仕方ないじゃん。」
彼は冗談でも言うかの様に、少し笑いながら答えた。
「だって、うだうだ言っても変わらないし、じゃあ残された三日間楽しく過ごしたもん勝ちでしょ。将来のことも考えず、やりたいことをやっていいんだぜ。お金だって将来のことを考えなくていいんだから使いたい放題だ。むしろ残したらもったいないからな。欲しかった新しいバスケットシューズだって親に頼めばいくらだって買ってくれるぜ。」
彼の言い分も一理あった。とりあえずここで無駄に焦っても何もいいことはないのだろう。
「相変わらずのポジティブさだな。」
そう言って笑った。笑ったことで一気に力が抜け、少し冷静に物事を見れるようになった気がする。
「じゃあ、今のところ太一は何がしたいわけ?」
「うーん、そうだな。とりあえず、今まで一度も食べたことないような高級料理とか食べてみたいかも。」
「キャビアとか、フォアグラとか?」
「そうそう。あんなのって普通じゃ絶対もったいないって食べないじゃん。だからこういう機会に食べとかないと。他はそうだな。お酒に挑戦してみるとか。」
「いいね。ついでにタバコも吸ってみるか。」
「そうそう。普通将来のこととか考えてたら、普通タバコとかお酒なんてやっても損するだけじゃん。でも将来がないってなるといろいろ出来そうでわくわくするだろ。春斗はなんかやりたいことないの?」
「うーん、何といわれてもすぐには思いつかないな。」
そう答えたが一つだけやろうと思いついたことがある。太一に言ってもなんだか笑われそうなので言わないでおこう。
「まあ、急に言われてもむずかしいよな。」
そのまま、残された時間何がしたいかという話で、二人で盛り上がっていると校内放送が流れた。どうやらまた先生を呼び出すものらしい。いつの間にか高木先生は教室からいなくなっていた。
「今度は何の呼び出しだろうな。」
そう誰にともなく問いかける。
「さっき言ってた保護者向けのプリントだろどうせ。」
太一がそう答える。
「そう言えば、この後どうする。部活はでるだろ。
「出る出る。あっ。」
太一は何やら思いついたらしく、少し不適な笑みを浮かべてこちらを見る。
「そういえばさ、学校に泊ってみたいと思わないか?」
「いいね。」
俺はそう即答していた。
「でも、先生が許すかな。」
「大丈夫でしょ。先生たちもいまさらそんな細かいこと気にしないでしょ。」
まあそれもそうだ。
「あとで先生に提案してみようぜ。」
そう太一がいったとき、ちょうど高木先生が帰ってきた。いままで騒がしかった教室が急に静かになった。保護者宛てといわれた封筒が配られ、先生が話し始める。内容としては、三日間を大切に過ごしてください程度のものだったが、最後に少しだけ見せた先生の笑顔はいつもと違い、何かをあきらめてしまっているような笑顔だったのが印象的だった。
「春斗いくぞ。」
そう太一に声をかけられ、荷物をまとめ体育館へと向かう。体育館は校舎の玄関から裏側にあるので、玄関から出て校舎をぐるっと半周ほどすることになる。校舎は西棟、東棟、そしてその間にある中央棟からできており、それぞれの棟は二本の渡り廊下でつながれている。校舎は三階建てで創立から四十年ほど経っており、どこか全体的に古臭い感じがする。今どきあまりないであろう、木製の靴箱から靴を取り出し履き替える。玄関には靴を履き替えにきている生徒が多数おり、一見するといつもと変わらない風景である。しかし、辺りから聞こえてくる話は、隕石や、地球滅亡、残された時間をどう過ごすかなどといった話ばかりで、何となくみんな落着きがないようにも見える。周りの会話を何となく耳に入れながらも、靴を履き替えていると、急に後ろから肩を叩かれた。後ろを振り返ると、ほっぺに何かが突き刺さった。
「引っかかった。」
そう言って駿は満面の笑みを浮かべている。
「お前、そういうの好きだな。」
半分あきれた顔でそう言う。太一も駿に気がついてこちらを向いた。
「お、駿じゃん。ちーっす。」
「おっす。」
短い挨拶を済ませて体育館へと向かう。
「駿はあと三日間どうする?」
俺はそう尋ねた。
「特にこれってことはないかな。というか考え中。春斗と太一は何か考えたの?」
その言葉を聞いて待っていましたとばかりに太一が話しだす。
「俺たちは学校に泊ろうと思ってる。駿も一緒に泊ろうぜ。」
「良いね、それ。一度はそういうのやってみたかったんだ。」
駿もどうやらかなり乗り気なようだ。体育館につくと他のメンバーは全員集まっているようだった。適当に挨拶をかわして話の輪に入っていく。
「太一は後三日間どうすんの?」
そう聞いたのは双子の片割れである陽平。
「みんなで学校に泊るというのはどうだい。」
太一はちょっと気取った感じで答える。双子の反応は思った通りなかなか良かった。しかし残りの二人の反応はあまりいいとは言えなかった。
「ごめん、ちょっと無理かも。」
そう言ったのはノブ。それにつられるように剛史も口を開いた。
「ごめん。俺もちょっと無理かな。」
絶対みんなの方が楽しいと俺は思っていたので、その理由を問いただそうと思った。その時、ちょうど片山先生が体育館に入ってきて話はそこで中断されてしまった。
「集合。」
片山先生が声を張り上げる。ちょうど高木先生も来たようで、別の場所で女子にも集合がかかっていた。男子部員は全部で一三人、二年生が七人で一年生が六人だ。全員で大きな塩を作ると、片山先生が話し始めた。
「さて、みんな状況は聞いているね。なので状況の詳しい説明は省きます。というか先生自身あまり詳しい状況は知らないので無理なんだけどね。それで、校長先生の方からは生徒が望むなら部活動をさせてもいいということになっている。僕自身、高校時代は部活に明け暮れていたし、だからこそ部活動という場所が君たちにとってどういうものなのかはわかっているつもりだ。それで、えーと、残り三日間部活動をしたいと希望する人はいるかい?」
そう言って先生はぐるりと生徒の輪を見渡す。俺も手を挙げつつあたりを見渡す。手を挙げているのは、自分を含めて五人。太一、駿、それに双子の二人だ。一年生に至っては誰も手を挙げていない。一年生たちはまだ入学して間もないし、部活の仲間やこの場所に対する愛着のようなものがまだないのかもしれない。
「そうか、わかった。部活動をやりたいという者がいるなら話を続けようか。まず今日は全員一度帰宅しなさい。親御さんも心配しているだろう。それに家族で一緒に最後は過ごしたいと思う親御さんだっているはずだ。というわけで部活動をするなら明日から。時間はそうだな、いつも通りの午前九時から。もし時間を変えたいなら、参加したいもので連絡を取り合って変更してもいいからな。何か質問があるものは。」
誰も手を挙げる気配はなかった。
「よし、では解散。」
そう言って先生は高木先生の方に向かって行った。一年生たちも二人ずつほどに別れて、体育館から出て行った。
「悪い、俺も先に帰るわ。」
そう言って剛史も先に行ってしまった。残ったのは俺を含めて六人。
「さて、じゃあみんな一旦家に帰って、必要なものを持って、もう一度ここに集合な。」
高木先生の方へ行った片山先生の方をちらちら見ながらそう切り出す。
「え、どういうこと。」
俺はついそう聞いてしまった。
「どういうことって、もちろん学校に泊まるに決まってるじゃん。」