【書籍紹介】真説・企業論(中野剛志・講談社現代新書) | 三原朝彦 ~あさやんブログ~

三原朝彦 ~あさやんブログ~

前衆議院議員
自由民主党福岡県第九選挙区支部長のブログです。

 友人に国家公務員と学者の二足の草鞋の生活をするふとどき(?)で優秀な中年男がいます。ある時は実直に公務員組織の一歯車として経済官庁のエネルギーの一部として大いに汗をかき、又ある時は寸暇を惜しんで大部の学術書を出版、更には新書本を勢力的に何冊も書き上げ、こっちの方は社会の大勢の一石、それも可成り大きな波紋を起こすようなものを投げて来ています。

 真説・企業論(中野剛志・講談社現代新書)も又私達一般人が持つイノベーションを軸とする経済成長の為の常識論に挑戦します。イノベーションの重要性に関しては著者は否を唱えてはいません。ここでも氏はイノベーションを引起す元祖と考えられる米国のベンチャー活動の実態を詳細に調査し、現実は考えられているものとは乖離がある事を明白にします。将来の見えないベンチャー企業にそう易々資金が流れ込む事はなく、その原資はコストを考える必要のない軍事費から来ていたり、大企業はもうすぐ上手く行くと判る事業を買上げたりとチャンと帳尻の合う行動をしたりを説明します。

 成功したベンチャー事業の後ろには幾万の失敗があり、しっかりしている大企業は自社での研究開発許りでなく、外部に眼を光らせて技術を買い取り、又企社共買上げたりも沢山していて、元々成功しそうなものを育て上げて事業の中心に置きますから私達はそれを見てベンチャー事業が経済を引張ると強く思い勝ちなのだそうです。

 著者は何もベンチャー事業自体を否定的に論じている訳ではありません。イノベーションを起すような事業は実はシリコンバレーにあるような小さなベンチャー事業体ではなく寧ろ時間と資金をしっかり持って長期的展望を持って生み育てて行くことが正道なのだと至極真当な意見を述べています。

 この結論は私も同意します。つまり当り前の事で、打出の小槌が経済実体を変えるのではなく、人的物的エネルギーを投入してこそイノベーションも生まれるのです。であればアメリカのように軍事費の一端を失敗を恐れずに使って新規なアイディアを生み出すか、資金の潤沢な大企業が失敗を恐れずに研究開発に時間をかけ、資金を惜しまずに投入して頑張るかなのでしょうか。

 著者の所属する経済官庁の役割はならば軍事費に替って研究開発にコスト意識を二の次にしての助成を企業や学術機関にどんどん提供することが解になるのかもしれません。例えこれを行ったとしてもせっかちに良い結果を求めるのではなくじっくり腰を据えて「家宝は寝て待つ」心境が必要と言う事になるのでしょうか。私もこの考えに傾きますが、しかし今日の経済環境がこれを許すのか大いに心配です。