【読書感想】西条奈加『まるまるの毬』『亥子ころころ』(講談社) | 雪花の風、月日の独奏

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Amazonの書評を見て購入を決めたのだが、思いがけず大当たりを引いた。

 

江戸時代、12代将軍の治世を舞台にした和菓子屋一家の物語。

各話完結形式で話が進み、治兵衛一家が巻き込まれる騒動とともに、

当時の和菓子にまつわる様々な逸話が展開されていく。

文体はさらりとして後味くどくなく、冗漫さもない。

それでいて細部の描写はきめ細やか。

長屋の様子や実際の菓子作りの流れが容易に想像でき、

世界観を脳裏に浮かべやすいタイプの文章表現だ。

 

本作の中心に据えられているのは、

表題通り、江戸時代末期の和菓子である。

カスドースや大鶉、蜜柑餅など、

我々の日常になじみのない和菓子が登場するたびに、

どのような形をしているのか、どれだけ美しい見栄えなのか、

何よりどのような奥深い味わいなのかと、

想像を掻き立てられ、ときめきが止まらない。

 

ただし、この物語は、ただ和菓子屋一家が菓子を作って商いをするだけではない。

治兵衛には大っぴらにはできない秘密があり、

終盤ではその秘密が引き金となってひと波乱起きる。

 

たびたび災難に巻き込まれる一家だが、

治兵衛が若かりし頃、諸国を巡っていた際に綴っていた菓子帳と、

記憶力抜群の一人娘・お永が事件解決の糸口になることが多く、

頼れる娘と快活な孫娘・お君に支えられる治兵衛の日常は、

どこまでも温かで読者までも穏やかな気持ちにさせてくれる。

 

また、主人公の弟である和尚の石海もいい味を出している。

とある理由で僧侶の勤めを果たしているものの、その性根は豪放磊落。

大刹の僧侶とは思えないやんちゃぶりと食への執念にくすりと笑わされてしまう。

また、その食い意地が兄の窮地を救うこともあり、

兄弟の絆も本作の見どころの一つだと言える。

 

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続編『亥子ころころ』では、怪我をして意気消沈した治兵衛一家の下に、

雲平という名の菓子職人が居候することになり、

彼の「目的」を話の軸に物語が展開されていく。

雲平の目的以外にも、彼とお永に関して惚れた腫れたの波乱があり、

和菓子にまつわるすったもんだを期待していた身としては、

肝心の和菓子が各話の終盤に少し取りざたされる程度に

とどまっているのが勿体なかった。

 

更には、ラストで雲平がまさかのレギュラーキャラクター入りを果たす。

お永は、雲平に心惹かれている様子なのだが、

浮気したが改心して男気を見せた旦那と元の鞘に戻ってほしい私としては、

おとっつあんに頑張ってほしいところである。