【ゲーム感想】『ニル・アドミラリの天秤』 for iOS & Android(2) | 雪花の風、月日の独奏

雪花の風、月日の独奏

ゲーム、アニメ感想メインの堕落ブログ。
主にギャルゲ、時々百合。

2月からプレイを始めた『ニルアド』もようやく折り返し地点。

 

10年前だったら、一ヶ月程度でプレイを終えていただろうが、

歳を取ったせいか、若い時ほどゲームにのめり込めなくなってしまった。

ゲームが面白くないわけじゃないんだ…『ニルアド』、シナリオ面白いんだ…。

ただ、プレイするのにも体力がいるようになってしまったんだ…。

うう、盛者必衰の理…。

 

 

一般的な乙女ゲープレイヤーが惹かれる『ニルアド』の面白さと良さは、

イラストの美麗さ、大正という耽美な世界観、万全のキャスト陣だと思うんだけど、

私は、「作家の悲哀」にスポットを当てたシナリオこそがこのゲームの真髄だと思ってる。

 

印刷された本には宿らず、自筆の草稿にのみ宿るアウラという設定は、

「長い時をかけて大切に扱われているものに魂が宿る」という付喪神的な素養を感じる。   

そんな作家の魂の写しとも言える自筆本が時代の流れとともに徐々に姿を消し、

印刷本が隆盛を誇りつつあるという状況は、紙媒体の書籍が減少し、

手軽に手に入る電子書籍が台頭しているという現代の世相にも通じるものがある。

廃れゆく古き良き伝統。

消耗されるだけの物語。

『ニルアド』という作品からはただの乙女ゲームだとは思えないほど、

ライターの訴えたいことが強く、色濃く伝わってくる。

 

何より、この作品の裏主人公ともいうべき存在が、作家の笹乞藤一郎。

 

 

ある事件がきっかけで自分の著書が売れるようになった。

長い間、作家として日の目を見なかった自分。

どんな形であれ、自分の作品を多くの人に読んでもらえるのは嬉しい。

この上のない幸福。

でも、いま作品が求められている理由は、決して「面白いから」ではない。

一過性のもの。

一時のお祭り騒ぎ。

作品としての良し悪しは誰も判断しようともしない。

それどころか、著作が「道具」として利用されようとしている。

嬉しい。嬉しいけど―――自分が望んだのは、こんなものじゃない。

 

これって、多くの小説家やライターに通じる苦悩なんじゃないだろうか。

この笹乞藤一郎というキャラクターこそ、『ニル・アドミラリの天秤』という物語を通して

ライターが一番描きたかった人物なのではないかと思っている。

紫鶴ルートでの、彼の本音の吐露は必見。

 

 

おっと、話が長くなった。

では、今回は、滉√と紫鶴√の感想をば。

 

-----------------------------------------------------------

 

 

もどかしかった。

いい意味でもどかしく、じれったく、切なかった。

 

滉√のテーマは、何だろう。

「生きる意味を探して」といったところなのかな。

現時点でクリアした√の中では一番プレイしがいのある√。

それと同時に、黒幕的存在である四木沼喬に一番肉薄する√でもある。

四木沼喬の思想、目的等の片鱗が垣間見れるので、

物語の真相を探る上でも結構重要だったと思う。

バットエンドもインパクトが強かった。

乙女ゲームにしては割と攻めたEDだったと思う。さすがCERO:D。

 

生い立ちが複雑な滉は、仕事はまじめにこなすものの、

フクロウの面々とはあまり交流もせず、ツグミに対してもそっけない。

無愛想ではあるが、だからといって、決して冷たい人間ではなく、

映画で涙を流してしまうくらい感受性が豊かだったり、

意外と無鉄砲なツグミのことを気にかけていて、

 

「危なっかしくて放っておけないんだよ!」

 

と、つい口走ってしまったりと、血の通ったキャラクター。

普段が物静かだから、つい感情を表に出してしまうシーンはどれも印象的。

映画館も然り。危なっかしい発言も然り。

自分からナハティガルに連れてきたのに、自分で連れ去ってしまう場面も然り。

 

一番お気に入りのエピソードは、映画館のやつかなあ。

暗闇で「何か」が触れて、互いに何も言い出せないまま、手を繋ぎ合って。

そのまま、言葉も交わさず二人っきりで寮まで帰っていく一連の流れ。

両思いだというほのかな予感があるのに、どちらからも切り出せなくて

くすぐったい関係が続く中盤の展開は最高だった。

 

それだけに、滉の正体が発覚してからの展開は、本当にもどかしくて。

お互いの気持ちが通じ合うシーンには感慨もひとしお。

ラストの「兄さん」には、どんな気持ちが込められていたんだろう。

 

エンディング後の短編も、滉が一番感慨深かったかな。

恵まれない境遇の滉がようやく幸福を手に入れて、

幸せそうに笑ってる姿には、心温まるものがあった。

何を考えているか分からない。だからこそ知りたい。近づきたい。大切にしたい。

個人的にはニルアドで一番のベストカップルだと思う。

 

それにしても、昌吾ルートでの出番のなさはなんでだろう。

いや、昌吾は他ルートでは微塵も出番ないんだけどさ。

 

 

 

 

他√では発生しない独自の事件が起きる√。

 

女の扱いに長けた作家先生が純真無垢な令嬢に惹かれる描写がさほどなかったので、

恋愛を楽しむ√としてはそこまでのめり込めなかったけど、

上述した「作家の悲哀」をこれでもかと詰め込んだ√なので、物語としては読みごたえ抜群。

事件の真相が知りたくて、プレイする手が止められなかった。

特に笹乞先生との対峙のシーンは必見だと思う。

こういう普段飄々としているキャラクターが感情を爆発させるって展開、

ベタだけどいいよね。

鈴村さんの演技も相まって、一番印象に残った。

 

あと、恋愛としては云々とは書いたものの、

目隠ししてお菓子とか、ストッキング履かせるとか、やることが他の√とは一味違った。

さすがCERO:D。いいぞもっとやれ(ぉ

 

 

 

※「ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚」のバナーに使用されている画像の著作権は、アイディアファクトリー株式会社に帰属します。