12月7日。
今日は私とギデオンが初めてキスした
9月7日からちょうど3ヶ月目。

私は私たちについて書くことに決めた。
私とギデオンとの出会いとそしてこれから私たちが経験して行くことについて
記録して行くことに決めた。

その理由は私もギデオンもアーティストで、
私たちがお互いに与える影響について
また私たちの恋がどこに向かうのか
そのことを生きながら、同時に書き留めておくことを
しなければならないように感じたから。

私たちが有名になるかは分からないけれど、
彼との出会いが私の人生を変えることは確かだと思うから。





私たちが出会ったのは8月20日。
あの人の誕生日の次の日で、
彼が前の彼女と別れてちょうど一年後の日だった。

8月20日。
あの日私は友人のアーティストと、
ニューヨークのダウンタウンにいた。

私はニューヨークで初めて展覧会を企画開催しようとしていた。
そしてその日はその展覧会のオープニングパーティーで
演奏してくれる予定になっていたラテンジャズのバンド、
ナビバンの演奏を聴きにきていたのだった。

私がニューヨークに着いたのは8月10日。
今回が3回目のニューヨークだったけれど、
このようなバーに来たのは初めてだった。

どちらかというと、セックス&ザ•シティーに出てくるような
アフターファイブのかんじのバーとか、
ファッション関係のコーディネーターをしている友人で
ニューヨーク生活の長いけん君が連れて行ってくれる、
奇抜でおしゃれなバーにしか行ったことがなかった。

例えば有名なホテルの屋上にあるプール付きの著名人がくるような
ミートパッキングエリアのバーとか、
普段はストリップバーが週末にクラブになるような
イーストヴィレッジのバー。
キラキラして、軽薄で妖艶な場所。

だけど、この日行ったそのバーは、
きっと知っているひとしか入らない種類のバーだった。
一階は水パイプを吸えるようになっていて、
地下はライブハウスになっていた。

私と友人は一階を通り抜けて、地下に直接おりて行った。

ここでは長い説明を省くけれど、
友人が紹介してくれたナビバンというバンドの演奏は
なかなか良くて、
特にバンドの全員でドラムを叩くパフォーマンスの一曲は
心臓がドキドキするくらい高潮するものだった。
こんな風に暗く狭いライブハウスで聞くのがもったいないくらいの
いい演奏で、私は友人に感謝した。

ナビバンには日本人女性が一人居て、彼女は細く美しく強そうで
年配の男性音楽家たちの中で一輪の赤い花のように印象的だった。

その日はナビバンの知人の誕生日だったらしく、
演奏の後には私たちまでケーキのお裾分けをいただいた。

後から知ったのだけど、その日の誕生日会は二人同時にお祝いしてたものらしく
その一人はギデオンだった。

ギデオンはナビバンの後に演奏したバンドの一員だった。
少しノワールな印象のブルースとロックのカバーを演奏するバンド。

次のバンドが準備を始めて、
そして彼を一目見たときから目が離せなくなった。

大柄なギターとハーモニカのバンドのメンバーに挟まれて
彼は細身で小柄で、どこか寂しそうな印象を受けた。
面長の細い顔とつり上がった目が暗いライブハウスのライトの下に
浮かび上がっていた。

彼はハンサムだったけれど、そういう外見的なことよりも、
彼の何かが、直接私の中の柔らかい部分に触れたのだと思う。

演奏が始まる前に期待したよりも
音楽はすばらしい訳ではなくて、
というよりも音楽のことがよくわからない私が聞いても
とにかくボーカルの歌がまずかった。

気になる彼は真ん中に居て、音楽の中に居て
身体が自然に動いていて
その動き方、目の閉じ方、時々コーラスで聴こえる
彼の声が本当に私の心をつかんだ。

陶酔しているというよりも、
音楽の中に全く入ってしまっていて
ほかのことはどうでもいいように見えた。

私は最初真ん中にいる彼がボーカルだと思ったいたので、
ずっといつになったら彼が歌うのかなと考えていたけれど
結局私が帰るまで彼がメインで歌うことはなかった。

友人とぴょこぴょこ動く彼が愛らしくて
あの人可愛いねと言ったりした。

数曲演奏を聴いて友人はクイーンズに住んでいて遠いので、
あまり遅くならないうちに帰らなければならなく
私たちは名残惜しくもコンサートの途中でそのバーを後にした。