十七回忌は晴れ!

 大気はカラッと晴れまして、半袖では肘が少し冷えてくる涼しさであります。 

 集まってくれる後期高齢者の親戚のおぃちゃんやおばちゃんを思えば足元が確かな天気で良かったと、先ずは胸を撫で下ろしました。

 今日は法事日和なのでしょうか…お寺さんの境内のあちこちに花が用意されておりました。

 ご本堂の一室に向かうと、あら!珍しく兄が先に来ておりまして、事務方の人と何やら話し込んでいる様子…やっぱりお経を短くしもらおうと頼んでいるのでしょうか。

「おっ!おみえ!良いところに来てくれたよ!今話してたんだけどもサ、卒塔婆(そとば)の数、どうしようか?1本1本書き入れなきゃならないって言われてサ、みんな立ててくれるかな?1本3000円だって!」

「十七回忌にケチケチしなさんなよ!人数分立ててもらえばいいじゃん!名前のリスト、こちらですので、どうぞよろしくお願いします」

「お前ってサ、妙なところで大胆だよな?俺、頭ン中、電卓になってたよ」

「おぃちゃんやおばちゃん、佃島の従姉兄たちも来てくれるんだから、ちゃんと挨拶してよ!」

「わかってるよ!」…どっちが兄なんだか妹なんだか判りません。

 兄とは5年も6年も会っていない親戚がおります。

「あんたホントにあきちゃんなの?若いころの方がお父さんに似てたけど、今は北海道のお百姓になって日に焼けちゃって、どこか目だか鼻だか判んないわ」

「あきらか?何年振りだ?いつもどうしようもないジャガイモやらカボチャやら、ありがとな。畑で生るのもいいけどもサ、海産物も頼むよ!」

「クマには気を付けるんだよ」

「いやいやクマにも味覚ってもんがあるからね、あきちゃんなんか襲わないよ」

 みんな言いたい放題でありますが、兄も負けてはいませんで、つつぅとおぃちゃんやおばちゃんの傍らに寄って例のニンニクを渡しております。

「今年はね 豊作なのよ。ニンニクの実が透き通ってるの。生涯で最高のできなのよ」

 みんな顔をしかめております。

「あきちゃんよ、なんでニンニクなんだよ!ここはお寺だよ。教会じゃないんだよ!これで十字架があったらサ、オカルト映画・エクソシストになっちゃうぜ」

 みんな有難迷惑そう…「でも良いニンニクだよ。あきちゃんの肥やしが利いたニンニク、大事に食べるよ」

 今どきの法要は正座ではなくイスに坐って行われるので、膝や足が痛いおばちゃんたちには有り難かったです。

 お経は長くもなし、短くもなしで飽きる前に終わりホッと致しました。

 お墓に卒塔婆を立て、お経をあげて頂きました。

 ご住職さんからの説法は「六根清浄のお話」でありました。

「本日は御父上の追善供養・十七回忌を無事に執り行えたことは本当に良きことでした。こうしてたくさんの方に供養された御父上は幸せかと思います。これからもそれぞれの形で供養を忘れぬように。さて…目・耳・鼻・舌・身・意の6つの器官が穢(けが)れを祓って清らかになるよう祈りました。六根清浄とは人間の心身が種々の功徳に満ちて清浄になることを言います。方丈にお斎(おとき・会食)が用意されておりますので、故人の昔話をしながら召し上がって下さい。今日は良くお参りなさいました」

「終わった終わった!あきちゃんと友ちゃんの顔も見られてサ、いい十七回忌だわ。友ちゃん、あきちゃんのこと頼むね。見捨てないでやっておくれね」

「時々、黙って東京へ帰って来ちゃおうかと思う時ありますよ」
「友ちゃん、早まった考えを起こしちゃいけないよ」
「それよりお兄ちゃん、猫2匹どうしたの?クマに食べられちゃうかもよ」
「俺もそう思ってサ、札幌のペットホテルに預けて来た。帰りに引き取って帰るんだよ。どうしてるかなぁ~ルナとボニータ…」
 兄は根っからの猫派でして、ここ40年ぐらいシャムネコひと筋に飼い続けております。
 名前も代々同じでルナはラテン語で「月」、ボニータは「美しい」という意味だそうです。
 京都の老舗・澤乃井の仕出し弁当は、親戚の皆にも大好評でした。
「せっかくのお弁当なのにサ、ニンニク臭くちゃ敵わないからね、外に出しとこ」
 父が眠る墓石の後ろ…真新しい卒塔婆が立って皐月の風に揺れていました。
 なんとか無事に終えた…体力と気力があればこそできたこと。
 それがだんだんとできることも少なくなってくることでしょう。
 はぁ~!お気楽な兄を持つと賢い妹は大変でございます。