先日、新橋・御成門に住む友人から電話がありました。

「あーたんとこ、まだ讀賣新聞とってるの?」

「うちはね、生涯・讀賣一筋なの‼」

 亡き夫は大学卒業後から讀賣新聞社に就職。

 政治経済から警視庁詰めなど新聞記者を長くしておりまして、退職したあとも讀賣傘下に出向し、その人生のほとんどを讀賣新聞社に捧げたと、けっして身びいきではなく、そう思います。

 散々お世話になった、その讀賣新聞をいきなり朝日新聞や毎日新聞に換えることなど考えられません。

 だって…ず~っとお給料やボーナスを頂き、然も退職金まで振り込り込んでくれた有り難い讀賣新聞社です、たとえ夫が亡くなったとしても、わたくしの命が尽きるまで購読数世界一を誇る讀賣新聞を読む覚悟でおります。

「そんなに讀賣新聞にがんじがらめな訳?その讀賣新聞の夕刊にね、浜離宮の菜の花が満開だって記事が載ってたのよ。写真入りでね、そりゃぁ~春真っ盛り!観に来ない?」

 友人も日経新聞社で退職まできっちりと勤め上げ、新橋・御成門のマンションで優雅な一人暮らしをしております。

 友人が住む高層マンションは浜離宮恩賜庭園のすぐ脇に建っておりまして、緑豊かな庭園が眼下に借景として望めます。

 ところが…肝心の菜の花畑は樹々に遮られて観えないとか…それで誘いの声が掛かったかと思います。

「あーた、大江戸線の築地市場駅前から来るでしょ?大手門前で待ち合わせしよう」

 確かに大江戸線で行くのが一番近いし分かりやすい道なんですが…都営地下鉄の駅を上がって、その目の前が、なんと朝日新聞東京本社なんです!

 目を上げないように通り過ぎて恩賜公園に急ぎましょう!

    

 大手門の石垣の影にぼーっと立っている友人を発見…まぁ~ご近所さんとは言えジャージの上下でスニーカー、軽くジョギングをしながら来たとのこと。

「帰りも走って帰るの?」

「あたぼうよ」…(これは、あたりまえだよ、べらぼうめ!を短くしたものです)

 浜離宮は東京都が管理しておりますので、入園料も300円とお安い!

 その300円も、有り難いことに65歳以上は半額の150円となります。

 嬉しいですねぇ~つくづく歳を重ねてきて良かったと思います。

「私はちっとも嬉しかないわ」

 今日の手入れは松の樹らしいです。

 2人の庭師の方が、こちらの赤松を剪定しておりました。

 庭園に入ってすぐに目に入る光景…松のこも巻き(害虫駆除用)の冬の装いと遠くに見える菜の花と季節の入れ替わりを楽しめる工夫がされております。

 まだ午前中の早い時間であったので、新聞記事になった割にはそれほどの人出はありません。

「讀賣新聞の効果がないってことかね?」

「違わぃ!人出はこれからだわよ」

 庭園は広々として気持ちの良いこと!

    

 浜離宮恩賜庭園はすぐ近くに汐留のビル街が建ち並び江戸時代の庭園と令和の近代建築が混在…不思議な光景を観ることができます。

 春は菜の花…秋はコスモスの花畑が広がり、それぞれに趣のある季節を感じることができるかと思います。

 もうハナバチが盛んに飛び交って受粉を行っておりました。

 脚にもお腹にも黄色い花粉が付いて…頑張っております。

 耳を澄ますと…ブ~ンとハチの羽音が聞こえて参ります。

「のどかだねぇ~」

「春だねぇ~」

 こんな他愛もない会話ができる友であります。

 とは言いましても、まだ暦の上では如月・2月でございます。

 まだまだ三寒四温で用心をしなければなりませんで、松を覆う雪吊りを外すことも叶わぬことでありましょう。

 うらうらとした陽光に不思議な姿の雪吊りでありますが、実益と様式美を兼ねた雪吊りに改めて日本文化の良さを感じました。

 回遊式庭園には大きな潮入りの池も配置され、休みながらゆっくりと回っていると時間の立つのもあっという間…友人が淹れて来てくれたコーヒーをベンチに座ってご馳走になりました。

「で?元気なの?お互い独り身だからね、小まめに連絡しとかなきゃね。映画とか観に行ってる?」

「元気元気!時々ね、言い知れぬ不安や淋しさが襲って来るけどね、これは仕方ないもんね。あーたは、どぉよ?」

「まぁ~元気でやってるけどもサ、やっぱ現役リタイアしてからはちょっと空しかったかな?現場の取材からは遠ざかっていたけど、紙面のスクープなんか見ると血が騒ぐね」

「だって日経なんて株式ばっかじゃん」

「日経ならではのスクープってあるんだよ!新聞社魂っての?刑事や新聞記者ってサ、現場第一主義だよ。それよか、またみんなで集まろうよ!いつの間にか幹事役っていなくなっちゃったの?」

「新潮社(友人が勤めていたので、こう呼んでおります)だったかな?」

「講談社はサ、集まるってぇと銀座アスターばっかじゃん。新潮社に期待しちゃうよ。あれ?もうこんな時間…どっかでランチ食べて行かない?どうせ帰ってもひとりでしょ?」

「それはそっちも一緒でしょ!」

 汐留のビルに入っている和定食屋さんで、ポークジンジャー定食を頂きました。

「私サ、財布持ってきてないのよ。2千円しか持ってないんだ」

「今どきサ、現金持ってるより、携帯とかスイカとかで支払うんじゃないの?」

 長く領収証をもらう習慣だった友人は現金支払いが見に付いておるようです。

 友人はこの春4月から早稲田大学のオープンカレッジで心理学を学び始めるとか…

「あーたは?東京農業大学の講義受けてんじゃないの?」

 まぁ~ぼちぼちと言った感じで「発酵学」を学んでおります。

「体の健康は第一優先だけど、おつむも使っていないとネジが錆びついちゃうからね…錆びついた友だちっている?」

「一番怪しいのは、あーたとあちしだよ!」

「ギャフンだね!」

 ポークジンジャー定食・完食!

「満腹だよ!これじゃ走って帰れない…タクシー代貸して!」

 コイツとも絶交だな!

 今月いっぱい、菜の花は楽しめるそうです。