本日は中央区・木挽町(こびきちょう)に来ております。

 ちょうど歌舞伎座の裏手になるのですが、下町らしく路地裏などもありまして、何やらその先にある楽し気で秘密めいた空間にワクワクと冒険する気分であります。

 鉢植えのキンカンが小っちゃな実を付けております。

 葉っぱを見てびっくり!

 ちゃんと虫に喰われた痕が残っておりまして、柑橘系の葉を好むのはモンシロチョウかアゲハチョウでありますから、夏の間に幼虫が食んだものと思われます。

 ここで孵化し、蛹となって羽化したチョウは、さぞや粋な姿かたちで飛ぶのでありましょう。

 今日は午後1時40分より、万年橋たもとにある東劇でシネマ歌舞伎『唐茄子屋・不思議之国若旦那(とうなすや・ふしぎのくにのわかだんな)』を幼馴染み・さわちゃんと観に参りました。

 歌舞伎座での公演は令和4年の10、11月でしたが、それをシネマにしての上映であります。

 作・演出は宮藤官九郎(くどうかんくろう)でありますから、もうこれは喜劇も喜劇ハチャメチャな喜劇でございましょうから、大いに期待をして参りました。

「東劇でサ、25日までかな上映してるから観においでよ。あちし歌舞伎座でやってるとき忙しくて見損なっちゃったのよ。看板絵を見て、やったぁ!って思ったのよ」

 幼馴染みの家は歌舞伎座の近く、築地・本願寺さんの裏手にありますので、さわちゃんは子どものころから築地や東銀座は目をつぶっても歩けるぐらい馴染んでおります。

「いいよ!何時から?」

「あちしは店があるから…1時40分の上映じゃないと間に合わないんだわ。その上映って応援上映だからサ、大向こうの人たちも練習に来てるしね、手拍子もオッケーだし面白いんだわ。それでいい?」

「へぇ~いいよ。大向こうが聞けるなんて楽しみだね」

 さわちゃんは豊洲市場でマグロの中卸業を営んでおりますもので、店を放り出して観るわけにも行かず、ここはさわちゃんのスケジュールに合わせると致しましょう。

 大向こうとは…「よっ!中村屋!」、「澤瀉屋!(おもだかや)」など贔屓の歌舞伎役者に掛ける掛け声でございます。

 役者のセリフの合間に掛けたり、舞台に登場したとき、見栄を張ったときなどに掛ける威勢のよい掛け声でありますが、タイミングを少しでも外してしまうと役者のセリフと重なってしまったりとかなりな訓練が必要で、大変難しいとされております。

 本番の公演で練習するわけにもいきませんから、こうした応援上映でタイミングを計り、絶妙な間合いを探っていくものと思われます。

「その前にサ、お昼ご飯食べて行こうよ。築地のやぶ蕎麦がなくなっちゃったからね~長寿庵でいい?」

「木挽町の?いいねぇ~久しぶりだわ」

「じゃ長寿庵で待ち合わせね」

 と言うことで、5年ぶりぐらいとなる長寿庵へ…サラリーマンの人たちのランチタイムが終わったあとで席を確保!

 お蕎麦と丼物のセットを注文しました!

 ここはご飯もの甘辛い出汁が美味しかったような…さわちゃんはカツ丼、わたくしは親子丼。

 ペロッといけちゃいました!

 さぁ~お腹もいっぱい…いざ!東劇へと参りましょう。

 あった!あった!大看板。

 今回の「唐茄子屋」は古典落語の人情噺「唐茄子屋政談」と「大工調べ」、それと「不思議の国のアリス」の要素が盛り込まれた物語で、宮藤さんお得意の奇想天外な展開となっていると聞きました。 

   

 あちらに見えるのは本家本元の歌舞伎座で、今月は新春歌舞伎の公演が行われております。

 こちらの上映では、中村勘九郎・七之助兄弟に俳優の荒川良々(あらかわよしよし)、中村扇雀、坂東彌十郎、中村亀蔵、中村獅童、勘九郎の長男・勘太郎に長三郎も出演して、それはそれは賑やかな顔ぶれとなっております。

 

 やはり応援上映ともなりますと常連さんたちでしょうか…ほぼ満席でございまして、大向こうの掛け声も掛かって、それはそれは歌舞伎座の舞台を観るように華やかでございました。

「まぁ~喧しいほどの熱演だったね」

「みんな早口で何を言ってるのか分からんところもあったわ!耳がいかれてきたのかも知らん」

「おもちゃ箱をひっくり返したようなハチャメチャではあったね。古典落語の良いとこ取りだけど、如何にもクドカンの演出だったね」

 久しぶりに屈託なく笑いました。

 たまには…自分へのご褒美ご褒美!

「さぁて、また明日から気合をいれて働くかっ!これね、マグロの刺身。少しだけどサ、赤身にしといたから食べて。家に帰るころ解凍されてると思うよ」

「うわっ!ありがと」

 上映時間は2時間とちょっと。

 電車が混む前に家に帰ることができました。

 今夜はマグロの赤身で一杯。

 ちょうど上手い具合に解凍するでしょう。

 静かな晩です…古今亭志ん生の落語が聴きたくなっちゃた!

 カセットテープだけれど、掛かるかしらん?

 志ん生の出囃子・一丁入りが鳴り出すと、そこはもう江戸時代に遡ります。

「と~うなすぅやぁ~唐茄子ぅ~」の売り声が耳にやさしく響いて参ります。