空に浮かぶ白い雲…久しぶりに見るほわほわとした雲を眺めていると、ふわ~っと雲が集まってきて、まるで深海魚のオコゼのよう。

青い空にぽっかりと浮かぶ雲って、なぜか心がほっこりと和みます。

今では高級魚となってしまったオコゼ…あっさりとした白身の刺身も良いけど、やっぱり唐揚げにしたオコゼの味は格別であります。

家で揚げるには下処理が難しく…老い先短い・わたくし、もうこの先、食べる機会もないだろうと思われます。

せめて、せめて空のオコゼを堪能致しましょう。

生唾を飲んでオコゼから視線を離脱…フッと振り返ってみたら、雲は形を変えてしまっておりました。

新緑に縁どられた青い空、眩しかったです。

   

雲のオコゼも良いけど、やっぱり実物大のホタルイカを目の前にしますと、季節を感じます。

豊洲市場でマグロの仲卸業を営んでいる、わたくしの幼馴染み・さわちゃんが配達の途中に競り落としたばかりのホタルイカを持って来てくれました。

「あーたはホタルイカ、あんまり得意じゃないの知ってるけどもサ、今が旬のホタルイカだからね。1度は食べておきなさいよ。お客さんから茹でたホタルイカの注文があってサ、ついでにあーたんとことあきらんとこに持っていこうと思って余計に頼んで持ってきた。食べる分取ったら、悪いけどあきらに届けてくれる?あの子、ホタルイカの酢味噌和え、好きなんだよね」

あきらくんのおっかさん、わたくしどもふたりの共通の幼馴染みでして、すぐ近くに親子3人で暮らしております。

ひとり息子のあきらくん、大学1年の時から豊洲の店でアルバイトをしており、さわちゃん夫婦から我が子のように可愛がられております。

「前に言ったけども、ちょっと手間が掛かるけどホタルイカの目ん玉とトンビって言うくちばしを取ってから食べなさいよ。面倒だろうけどあきらんとこのも下処理してやって。あのおっかさん、そのまま…いんや、このプラスチックごとテーブルに出すヤツだからね、困ったもんだよ!」

目ん玉とトンビを取り除いたのと、そうでないのとでは味に雲泥の差が出るとさわちゃんに教えてもらいました。

仕方がない…今年で27歳になるあきらくん…美大の前期・後期の大学院を経て、今は研究室に詰めているとのこと。

美大の研究生って、果たして芸術の才能があるのか?ないのか?

ホタルイカが好物という渋い研究生であります。

わたくしは酢味噌和えではなく、今夜は生姜しょう油でさっぱりと頂きました。

そう!わずか3つだけ…みなさまが美味しいというミソと言いましょうか、はらわたと言うのでしょうか、あれがぐにょっとしていて苦手で、数は頂けません。

下処理を済ませたホタルイカ、散歩がてらに幼馴染みに届けました。

「さわ子がね、あきらにって言ってたから、たっぷりと食べさせてあげなさいよ。酢味噌も作ってきてあげたからね」

「あーたもさわ子も過保護なんだわ!パパの酒の摘まみにちょうど良いわ!」

「あの四角い顔のパパに食べさせるのぉ?」

「何んだかサ、このところあきらの顔も、こうエラが張ってきて四角くなってる気がするんだわ。間違いなくパパの子だねぇ~」

あ~このガックリ感は何んなんだ!

富山湾産のホタルイカ、美味しかったよ、さわちゃん!

ごちそうさまでした。

 

『光るまま網ですくはれ蛍烏賊』

(ひかるままあみですくわれほたるいか)

吉川康子