北風とともにガサガサッと何やら不吉な音がわたくしの脇を通り過ぎたような?
1歩2歩と進んだその先の行く手を遮るがごとく、わたくしを見上げる視線に目を落としてみれば…ぎぇっ~!
不気味な仮面そのもの!その場に凍り付いてしまいました。
ドイツの聖ニコラウス祭に登場する悪魔・クランプス?
よくよく見れば虫に喰われたタイサンボクの葉っぱでありますが、その目つきの何んとも鋭いこと…クシャッと足で踏んでしまえば粉々になってしまうほど乾燥している葉っぱですが、勝手にビックリしたのはこっちですからね、足も痛いことですから、ここは大人気ないことは止めておきましょう。
「メリークリスマス!」
遥かドイツの国に呼び掛けてみました。
今日は風ニモ負ケズ早々と買い物を済ませましたので、午後いっぱいは本を読んで過ごし体力温存と致しましょう。
と…思っていたら、豊洲市場でマグロの仲卸業を営んでいる幼馴染み・さわちゃんから電話が掛かって参りました。
携帯に表示された「さわ子」の文字を見た瞬間・出るのは止めとこと思ったのですが、アイツのことだからこっちが出るまでしつこく呼び出し音を鳴らすに違いないので、画面をタッチしたあと無言でおりました。
『もしもし?ちょっとぉ!今サ、歌舞伎座で市川團十郎襲名公演・昼の部、観終わったところ。もうがっかりよ!口上がある夜の部はおっかさんを連れて観に行ったからサ、今日は昼の部を観に来たのよ』
はぁ~こりゃぁ長くなりそうだ
相槌を打つヒマもなくしゃべり続けるさわちゃん!
よっぽど舞台が面白くなかったようです。
要するに…團十郎襲名に相応しくない芸である。
稽古・精進を重ねた芸ではなく、観客をなめている。素人のあちしがどう観たって上手くない。あれじゃぁ~目の肥えた贔屓筋(ひいきすじ)・タニマチも納得しないだろうと思う。
さわちゃんは歌舞伎座の近くで産まれ育っておりますから、素人とは言えどもかなり歌舞伎を見知っております。
そのさわちゃんが歌舞伎界にとってもお目出度い襲名披露をこんなに貶すなど珍しいことであります。
その中で褒めていたのは昼の部の偶数日に出る市川猿之助、奇数日に登場する市川中車(いちかわちゅうしゃ・香川照之)の茶屋の主・照右衛門(てるえもん)、他に松本幸四郎、尾上松緑が演じる『鞘當(さやあて)』が抜群の出来だったそうです。
『今日は奇数日で念願の猿之助が観られて、これで中車とふたりの照右衛門を観たってわけ!次の演目の娘道成寺、途中で帰って来ちゃった。夜の部は大物役者の口上があるから、まだ席が埋まってるけどもサ、昼はあちこち空席が目立ってた。襲名興行に空席があるなんて信じられないわよ。こんなんじゃ松竹もがっかりだと思うわ。もしもし?聞いてんの?』
はぁ~耳が疲れてきたぁ~
『死んじゃった中村勘三郎がサ、インタビューで言ってたんだけどね「いくら名門の出であっても下手なのが舞台に上がっちゃイケない」ってはっきり言ってたの思い出したわ。詰まるところ、そう言うことなのよ!』
「さわ子はさぁ~昔っから中村屋の贔屓だもんね。勘三郎って言うべきことははっきりと言ってたよね」
『そっ!だからこそ歌舞伎が、ここ10年で盛り返して来たってのに團十郎ごときが足を引っ張らないでほしいわ!型が体に入ってないから型破りも屁ったくれもないしサ、様式美って言うか見栄えばっかり気にしてるもんだから、観ていて薄っぺらな感じ!あ~言いたいこと言ったらスッキリしたぁ~!年末サ、お正月用のマグロ取りに来なさいよ。じゃね』
こっちはちっともスッキリしないけど…これまで傲慢な演技が鼻に付いていた市川海老蔵でした。
目の肥えた観客が望む「市川團十郎白猿」…なかなかに前途多難なようです。
すっかり日が暮れてしまい、ぐっと冷えて参りました。
もうさわちゃんの熱気溢れる講釈を聞いて疲れちゃったので、今夜は簡単に済ませようと思います。
フライパンでチャッチャと昭和の味がするナポリタンスパゲティにしちゃいました。
来年3月11日、ここ江東区のティアラこうとう大ホールで『中村勘九郎・七之助春暁特別公演』が予定されております。
チケット販売が始まったようですから、さわちゃんともうひとりの幼馴染みを誘って観に行きたいなぁ~
勘九郎・七之助…このふたりが50代60代になって円熟味を増した演技を観ることは、もうわたくしたち60代後半の者には出来ぬものと諦めております。
歌舞伎役者の他にも、お気に入りの若手俳優たちのいぶし銀のような渋い演技も観ることも、きっと叶わぬことでしょう。
ボケちゃうか、寝たきりになってしまうか…いつまでも元気でいられるとは限りません。
今のうちにせっせとリアルタイムで観るに限る・であります。
さっそく折り返し、さわちゃんに連絡を入れてみましょうかねぇ~
3月・弥生の愉しみが出来ました。