昨日、わたくしは友人から「話題になってる映画、観に行こうよ」と誘われ、待ち合わせの銀座まで出掛けて行きました。

銀座・和光の裏・瓦斯(ガス)通りに面しているシネスィッチ銀座で公開されている映画『土を喰らう 十二ヶ月』を観てから、久しぶりに来た銀座で遅いランチを済ませ街をブラブラ…しばしコロナ禍を忘れ、楽しゅうございました。

白い紙袋を背に和光のショーウインドーを眺めている友人…つい最近まで大手出版社に勤めていた友人は多額の借金…ではなく退職金を手に入れ、夜ごと口座預金を眺めてはニンマリ。

ひとり酒に酔っているという独り身でございます。

1度も結婚したことがないのですが恋愛経験は豊富なようで、現役時代は会うたびに「フッたフラれた。捨ててやった、もう飽きた!」などと実際のところは深く追求はしませんでしたが、身の周りは華やかでありました。

さっぱりと明るい性格で、仕事をバリバリこなすキャリアウーマン!

退職したとはいえ、今でも小さな雑誌に映画のコラムを持っていて、本人にしては大好きな映画に囲まれ幸せな人生でありましょう。

彼女も独り身で60余年を重ねておりますから、それなりに終活の準備に余念がないようで、ご覧ください!

「もうサ、いつ特養(特別養護施設・老人ホーム)に入っても大丈夫なようにね、髪の毛染めるのやめて、潔く刈り上げにしちゃったよ」

「きれいなグレイヘアになって、すっごい似合ってるよ。もう男とか女とかを感じさせない領域に行っちゃったね」

「う~ん…微妙な褒め方だねぇ」

「ううん、微妙に貶してんだよ」

「……」

   

さて…ふたりの間に流れる空気、微妙な雰囲気になってしまったのですが…せっかく銀座に出て来たのですから、これから同じシネスィッチ銀座でもう1本・観る予定でございます。

関友太郎、平瀬謙太郎、佐藤雅彦が結成した監督集団「5月」の初長編映画『宮松と山下』

「あの香川照之の単独主演映画!セクハラ疑惑でお蔵入りになるかと思ってたんだけど、先週18日に公開されてサ、実を言うとホッとしてる。試写会での評判も良かったし、ホント意表を突く展開でね、89分の短い映画にしては上手にまとめられてて面白いの。香川本人へのインタビューでもね、この役に対する意気込みってのがダイレクトに伝わってきたなぁ~話はポンポンと弾んでインタビューしやすいんだけど、すぐ昆虫の話やボクシングの話になって脇道にそれちゃうわけ。あの雑学の知識は相当なモンだわ」

わたくしも虫好きなものですから、香川照之・カマキリ先生の番組は録画をして観たほどのファンでありました。

右足・第4指骨折の治療中のわたくし…映画2本を立て続けに観るってどうなのよ?ってところなんですが、映画通の彼女がこれだけ褒めるんですから観てみたい衝動に駆られ、チケットを購入!

「ツダカンこと津田寛治も出てんのよ」

「あぁ~あーたの好みのタイプだもんね」

「そっ!今回はね、このツダカンがね、キーポイントなのよ」

  

物語は…12年前から過去の記憶がないまま、テレビ、映画のエキストラの役者をやっている「宮松(香川)」が主人公。

冒頭から浪人姿で切られ、すぐに笠と蓑(みの)を付け、別の浪人としてまた切られ、弓矢に射られたり、そのリアルな迫力にすぐ画面に引き込まれてしまいました。

次の場面では昭和の時代でしょうか…ヤクザの抗争で銃の打ち合いに巻きこれた一般人の役をやったかと思えばで、すぐに起き上がり衣装を重ね着し、逃げ回るチンピラの役になり、またもや銃で撃たれまくる…やっとエキストラの仕事を終え、アパートに帰る。そこには松宮には似つかわしくない美女が待っている…ところがそこも撮影現場と化し、もう現実と虚の境目が判らなくなってしまうほど、このはめ込み方が実に上手い!

そんな日々を送っているある日、宮松が出ている映像を観て訪ねてきた人物が登場すると宮松の過去が本人の記憶と重ならないまま展開していき、自分が「山下」であることを知らされる…あとは少しづつ宮松の記憶が断面的に蘇ってくる…えっー!そんなぁ!

さて、宮松と山下は、どう折り合いをつけて「今とこれから」を生きて行くのでしょうか?

    

「面白かった!2本目だから途中で眠っちゃうかもと思ったけどぜんぜん!かえって目が冴えて来たくらい面白かったわ」

「さすがは香川照之だよね。上手いなぁって唸っちゃう部分はあるね。性格的にはアクが強すぎるから使い方が難しい役者ではあるね。まぁ~どんな役でもなり切っちゃうところが彼の強みだけど、歌舞伎役者との二足の草鞋を履いて行くんだろうけど、これからが正念場だね」

「この映画では今までになかった役柄だよね。大人しくて几帳面なところ、説明がない分、映像できちんと伝えるあたりは監督集団の手腕だね。香川自身、この役の人柄を目指して精進していけば良いんだよ」

「ツダカン、良かったでしょ?ちょっと暗い影があってサ。あの暗さはなかなか出せないよ」

夜を迎えた銀座はやっぱり良いな!

電気代が値上がりしたと言うのに、このとてつもない明るさ!なんなんでしょうか。この下で本を読めちゃうほどで勿体ないなぁ~

「でもサ、この街の賑わいでみんなが抱えている閉塞感っての?少しは軽減されると思うな。光に当たっていると元気が出ない?」

「これっぽちも出てこない。この明るさをビニール袋に詰めて持って帰りたい!」

「ビニール袋じゃ明かりは漏れちゃうよ。密閉容器っての持ってないの?」

そんなの持って歩いてるおばさん、いないだろ?

でも今度から光が漏れないような遮断容器を持って歩こう!?

映画館を出たのが午後6時40分、歩いてすぐの高知・土佐料理を出す店に来て産地直送の刺身を頂いております。

「この緑色の、ケンミンショーで紹介された「土佐のぬた」じゃないかな?刺身はもちろん、万能調味料として高知県民愛用だって言ってた・ぬた!」

「これ?刺身につけて食べんの?えっ!甘~い!あちしはダメだ。刺身にはしょう油にワサビ、カラシにショウガだよ」

「ホント甘いわ。なにが入ってんのか、ちょっと店の人に訊いてみようよ」

訊くところによると「葉ニンニクに味噌、ゴマに酢、そして砂糖をいれて摺った」ものらしい…ブリに甘いタレって酒が進まん!

「しょう油をもらおう!」

「やっぱ関東はしょっぱい文化なのかね?ケンミンショーじゃサ、みんな美味い、美味しいって完食してたけどなぁ~」

「その土地土地の風土で出来上がる郷土食ってあるよね。1本目の『土を喰らう』の映画って、生もの出て来なかったね」

「当たり前じゃん!土掘ってサ、ブリやマグロが出て来たらびっくりだよ!ここまで生きて来ると野菜中心の食事に興味を惹かれるわ」

「老人ホームに入ったらサ、新鮮な刺身なんか出してもらえないよね?」

「高級老人ホームに入れば何んとかなるんじゃない?あーたサ、マンション売って一緒のホームに入んない?みんなにも声掛けてサ、わいわいやろうよ」

「…うるさいって、すぐに追い出されちまうよ」

「あり得るな…」

これからの老後・70代をどう生きるか…田舎に引っ込む暮らしを選択するか、都会の真ん中で刺激に溢れた暮らしをするか…とにかく記憶が確かなうちに予定を立てておくべきか?行き当たりばったりの人生に終始するか?

う~ん…考えどころですな。

「あーたのその中途半端な髪の毛、さっぱりと刈り上げてから次のステップに進もうよ!」

先ずコイツと絶交してからだな!