雨の雫もよく似合う鈴蘭・スズランです。
せっかく「立夏」を迎えたのに、今年はスッキリとした皐月晴れに恵まれぬ日々が続いています。
スズランには「君影草(きみかげそう)」という淋し気な風情の別名がありまして、こうして雨を全身で受けている姿を見ると「なるほど」とひとり頷き、むしろこちらの名の方が相応しいような気がして来るから不思議であります。
今日は亡き夫の誕生日…七年経っても、その歳を数え、何んとも詮無いことを繰り返しております。
新しい花に替え、買い求めたばかりの新茶を奮発…この日に供えたくていそいそと買いに走ってる。
こんな可愛らしいところもあったのよ!
久しぶりに揃いの湯のみで飲みましょうか。
淋しくてちょっとだけ落ち込んでしまう日、特に降ったり止んだりのこんな空模様の日には本棚からこの1冊を手にゆっくりと読んでいくことが習いとなりました。
詩人・茨木のり子・作『歳月』…最愛の夫・三浦安信への想いをつづった詩集で、表題作を含めた詩と、没後に発見され未発表の詩・39編が収録されています。
2007年に刊行された詩集で、出版元の花神社(かしんしゃ)では絶版となってしまいました。
多くの方々が復刻版を願っている1冊であります。
のり子・23歳の時にお見合いで結婚をした相手は北里病院の医師・三浦安信でした。
26年の結婚生活でのり子はどんどん三浦の人柄に魅せられ、夫婦となってから恋愛感情が募っていったと思われます。
47歳で未亡人となったのり子がどんな思いでその後の32年間を過ごしたのか。
もうこの詩集にその想いが凝縮され、その圧倒的でほとばしる愛にわたくしは打ちのめされてしまいました。
濃密で艶めかしく、これほどまでに夫を尊敬し敬慕し、愛の告白・ラブレターを読んだことがありません。
39編の詩を発表するにあたって親族の方々のご理解があったからこそ、わたくしたちの手に届いたことを感謝せねばならぬかと思います。
最愛の人を亡くした気持ちに寄り添ってくれる詩・一編一編には励ます言葉はひとつもなく、哀しくて辛くて切なくて、逢いたい話したい抱きしめたいとの想いが溢れています。
だから深く癒されるのかも知れません。
「蝉しぐれ」という詩の一節に、わたくしは今まで願いも祈りも別方向に向いていることを知らされ、それからは神様へ託す言葉はこれひとつとなりました。
葛城山の麓に「一言主社(ひとことぬししゃ)」というお社があるそうで、ここの神様は願いの一言をかなえてくれるとのこと。
このお社に立ったのり子は一言、神様に願います。
『逝ったあのひとが、どうぞ安らかでありますように』
茨木のり子が亡くなって16年の歳月が経ちました。
39編すべての詩が、わたくしの心を気持ちを表してくれております。
一生涯、大事に手元に置いておきたい詩集・歳月でございます。
本に記された鳥の篆刻(てんこく)は茨木のり子の手に成るものと聞きました。
さてと…今夜は何かご馳走をこさえましょうかね。
『君逝きていや長い夜のはじまり』
(きみいきていやながいよるのはじまり)
上田五千石(うえだごせんこく)