「これは…あきらくん、喜ぶかも!ヒヒヒ!」

わたくしの幼馴染みがひとり、近所に住んでおりまして、そこのひとり息子・あきらくんは美大院生の後期課程に入り、「教育実習で生徒に教えることがスゴク楽しかった」らしく、「夢は教授だぜ!」とグラフィック・デザイナーとの二束の草鞋(わらじ)をしっかりと履いて行くのだそうです。

周りからは「そんなのなれっこないじゃない」とか「どっちも無理だよぉ~」とか、からかい半分に言われ放題のようですが、本人は至って軽薄に「やってみなきゃ分かんないってことの方が多いんじゃね」とコロナ禍であったもヤル気満々で日々・芸術に向き合い励んでいるようであります。

  

美術館・博物館、各種の展示会へも友だちやら学部生やらと足繁く観に通っていると聞いています。

「これ、面白かったよ。観といた方が良いよ」との確かな情報も寄せてくれるので、わたくし大いに助かっております。

東京駅ステーションギャラリーで開催されていた『コレクター福富太郎の眼・昭和のキャバレー王が愛した絵画展』も、あきらくんに薦められて観に行って参りました。

福富コレクションがこれだけの規模で開催されるのは初めてと聞き、ぜひ行きたいとは思っていたのですがコロナ禍での「緊急事態宣言・発令」となり、つい最終日を忘れてしまっていたところを、あきらくんに知らされ慌てて行ってきた次第…ギリギリセーフでございました。

福富太郎の審美眼はひとりの画家に拘るのではなく、良い絵でありさえすれば、その手法や画題は問いません。

邦画・洋画、油絵・水彩、キャンバス地であろうと絹地であろうと己の眼を信じた福富太郎が選ぶものには一切のブレがなきように思います。

ただ…女性を描いた作品には氏・特有の美学があり、コレクションには群を抜いて女性が多く登場致します。

展示されている作品を観て…「なるほど」と思いました。

その東京ステーションギャラリーでの絵画展にも出品されていなかったのが、この油絵でございます。

寺松国太郎が38歳の時に描いた『(くし)』であります。

この作品は「日本美術作品レファレンス事典」に近代絵画として収めてあるもので、わたくしも生で観たことはありませんが画集で初めて観た時、グッと引き込まれた作品であったことを覚えています。

所蔵は福富コレクション・資料室と記されてありました。

今日、納戸の本棚の奥に仕舞込んであった1冊…青山文平・著『遠縁の女』を見つけた時、息を吞みましてございます。

あの福富太郎の眼に適った『櫛』が、よもやわたくしの贔屓である作家の表紙絵になっていたとは!

確か…2017年に刊行され、買い求めた時にも寺松国太郎の『櫛』であることは判っておりましたが、今朝・この本を改めて手にした時の驚きは、66歳のわたくしにとってはまさに衝撃で、福富コレクションの格式の高さに改めて魅入ってしまいました。

  

この本を購入した当時、あきらくんの本の趣味には時代小説は入っておりませんでしたので、本は嗜好品ですから押し付けるものでもないと思い、そのうちに・と渡すことなく4年が過ぎてしまいました。

さっそくあきらくんに表紙絵の写真をラインで送りましたら…食い付きましたよ!

『これ、この間観に行った福富太郎のコレクション?すげぇ!良いよぉ~これ!本、貸して!』

『ぜったいに読む?まぁ~絵だけ鑑賞するのも悪かないけどね。取りに来るなら出して置くよ』おとめ座

で・20分…来ましたよぉ~メロン・半分だけ持たされて!

「これ、お袋から。うわぁ~良い眺めだよなぁ~」

両手で本を挟み持ち、食い付いております。

「あきらくんよ、あーたサ、どこを見てんのよ?」おとめ座

「どこだって良いだろ!これ、絵の上半分にタイトルの文字があってもそんなに絵の邪魔してないように見える。さすが装丁って良いとこに文字を当てハメるよね。しっかし良いねぇ」

「あーたの良いは、その乳房でしょ?デッサンで裸体とかの授業あるんだから見慣れてるでしょう?」おとめ座

「裸体って簡単に言ってくれるなよ。女体だからこそきれいなんじゃない。この乳房、良いなぁ~この質感が何んとも言えないね、皮膚の柔らかさが伝わって来ない?」

「伝わって来んよ。自分のおっぱいで手一杯だわ。その本ね、表題作の『櫛』を入れて短編3編が収められているから。ちょっと格調高い文章で武家の社会を描いててね、なかなかの時代小説であると思うよ。おばちゃん推しの作家だよ」おとめ座

「最近、時代小説も読んでるよ。この絵ってサ、福富個人所蔵じゃない?画集に載ってるかな?」

「うん、近代絵画で探してごらん。図書館のパソコンだったら調べられると思うよ。大学の図書室には絶対にあると思うけど、もう入れるの?」おとめ座

「図書室はね、入れるけど時間制限がきつくてね。帰りに隣の図書館に寄ってくわ。それよりサ、今日って29日で肉の日だってお袋が言ってたよ、行くのかって…」

「う~ん…今月はいいわ。食欲がないって言うかサ、作るのがダルくてねぇ。あとで電話しとく。あきら、コロナワクチン・接種できんの?」おとめ座

「親父の会社で今週中には出来るみたい。なんかこのままバッグに押し込むの、気が引けちゃうよ」

あきらくん、この女体に骨抜きにされちゃったようです。

「その女体が手にしてる櫛ね、なんの木で作られたとか…例えばサ「お六櫛(おろくぐし)」じゃないかとか、そういうの手繰って行くのも面白いよ」おとめ座

「あぁ、なるほどね。お六櫛って長野の特産品だったよね。飾り櫛のデザインもしてる学部生が言ってたけども櫛とか簪(かんざし)とかって歴史があるのって奥が深いらしいよ。寺松国太郎のほかの作品も探してみる。じゃ、借りてくね」

「はいよ、気を付けて帰るんだよ。メロン、ありがと」おとめ座

さて…急に静かになった部屋にアンデスメロンの良い香りが漂っています。

「食べようっと」

しかしメロンの切り方ひとつにも慎ましい暮らしぶりが出ちゃいますねぇ~

薄っい!フッと息を吹きかけたら倒れちゃいそう。

従来のメロンの形に拘るからダメなんだ!

もっと自由奔放に生きなきゃっ!

メロンと洋酒・特にブランデーとの相性が良いと聞いております。

聞いているだけで試す機会など、66年の人生で1度もございませんでした。

そうだ!ラム酒があったのを思い出しまして、四角に切ったメロンと合わせて頂きました。

ラム酒ではありますが、ホント洋酒に良く合います。

生のメロンですから、もちろんフレッシュなんですけど、完熟を超えた熟成感でコクのような趣さえ感じます。

わたくし、果物で言うならば追熟(ついじゅく)もとうに終わり、干からびて来てるかも…汗

まぁ~それはそれで保存食になりますからね、もうちょっと頑張ってみます!