ベランダ脇に置いてあるライティングデスクで行政への提出書類に書き込みをしていると…お隣のベランダから「みうちゃんとママ」の話し声が聞こえて来ます。
「ママ、空のお星さま・きれいだねぇ~いっぱいお星さまが光ってるよ」
「うん。ホントきれいだねぇ」
「ママ、お星さまってキラキラしてきれいだねぇ」
『えっ?!いつの間にか・夜?』…わたくし・思わず壁の時計を見上げ時間を確認してしまいました。
どうひっくり返って見たって午前10時半・チョィ過ぎ…然も朝早くからの雨降りで空は雨雲に覆われているとは言え、明るい
それよりも「みうちゃん」、今日は幼稚園行かないのかな?
ペンを持ったまま網戸越しに聞こえる母と子と話に耳を澄ましていると…みうちゃんの声が聞こえて来ました。
「バァバ、お星さまになっちゃったねぇ~」
「うん。みうとメグのこと、いつも見ててくれるよ。夜になったら、バァバどんな星になったか見えるよ」
母子で話す声は大事な宝物を探すような、落ち着いて楽し気にも聞こえます。
『えっ!えっ?』
そう言えば…ここのところのお隣さん、バタバタしているようで妙に静かでありました。
洗濯物を干す様子もなければ、「みうちゃんとメグちゃん姉妹」の笑い声や姉妹喧嘩をした泣き声も聞くことはなかったような気が致します。
わたくしも見えない星を見つけたくなって、そぉ~っとベランダに出てみました。
アボカドの木は日々・新芽を伸ばし、お隣さんとを隔てるボードと並びそうな勢いであります。
あの向こうに悲しみと寂しさを抱えた家族がいるんだ…きっとママが「バァバはお星さまになったんだよ」と諭したのかも知れません。
雨降りで見えるはずのない空を見上げようとも「みうちゃん」にはキラキラと光るお星さまが見えたのだと思います。
その日、わたくし出掛けることもなく静かに本を読んで過ごしました。
願うならば…「雨、上がってくれると良いなぁ~」
宙(そら)には無数の星が瞬いています。
哀しくとも淋しくとも名も知らぬ星の輝きと目が合ったとき、わたくしは安堵のような息をひとつ吐いたことを覚えております。
今なお愛しい両親を、故友を、そして亡き夫を深く想うとき、わたくしは夜空の星を見上げて来たように思います。
『満天の星涼しわが癒えつつあり』
(まんてんのほしすずしわがいえつつあり)
日野草城(ひのそうじょう)