「50年目の真実」として編集されたTBS・フィルムが劇場公開になると知り、大学時代の友人たち数人と「絶対に観に行こう」と誘い合っていたのですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、止むなく鑑賞を断念したドキュメンタリー映画・『三島由紀夫vs東大全共闘』。
国や東京都が発令・発動した宣言やアラートも解除されたとは言え微妙なこの時期、ひとりで観に行こうと思ってましたら、いつもまとめ役を買って出てくれる友人が「例の三島由紀夫。上映終了が迫ってるんで、みんなに声掛けたら行くって言ってるんだけど、あーた・どうする?」と電話がありました
どうする?と訊かれたら、迷わず「行く」と答えるしかありませんで、先日観に行って参りました。
梅雨の晴れ間となって良かった!
『東京・日本橋・コレド室町2。AM12時半・福徳神社の鳥居下で待ち合わせ』の一斉メールに従い、6人が集合!
「6人も?なんでみんな・こんなにヒマなの?」…ひとり、またひとり、またまた・ひとりと集まって来る友人につい本音が口を吐いてしまいます。
「あーただって6人のうちのヒマなひとりってことでしょ!」
ちょっと変人と言われている友人ふたりがガクアジサイの前にブツブツ言い合っております。
「アジサイって紫陽花の字を当てるのは間違ってるのよ。紫の花・全体を指しての紫陽花と呼ぶんだからね」
「私、しとしと降る雨に濡れてるアジサイって、どうも好きじゃないんだよね。なんだかサ、ぶりっ子してる松田聖子みたいな感じしない?その気になって萎れてるって言うか上目遣いを感じてしまうのだよ…むしろ太陽の光に当たってるアジサイの方が健全な感じがするんだわ」
「しとしとじゃなくて土砂降りの雨とかだったら?」
「う~ん、それだったら逆にガンバレってなる?私サ、雨→アジサイ→カタツムリ…この方式を思い浮かべる、自分が好きじゃないのかもなぁ~」
「ほら!そこのふたり、行くよ」…幹事の声にゾロゾロと3階へ。
6人居たら、6人様々なマスクをしてるモンだなぁ~と思って見ておりました。
手作り派がふたり。ユニクロのマスクにシリコンのような素材のマスク、夏用マスク。で・買い置きしてあった普通のシンプル・マスクのわたくし。
顔の半分を覆い隠してあるのに、みんなバッチリ化粧しての目力が凄い!
開館されている映画館はどこも、ひと席空けてのチケット販売となっておりますので、これだったら横・一列に6枚購入することもないと各自で好きな席を買うことにしました。
ここでも性格が出まして、見事に前後・左右バラバラ。
わたくしは1番後ろの端っこ。それほど大きなスクリーンではありませんが、会場全体を眺めますと髪の毛が白いか薄いかの高齢の男性の方が女性より多いように見受けました。
あのころヘルメットを被ってデモをした学生たちかも?50年前の駒場キャンパス・900番教室に居たのかも?もしそうだとしたら同じ空間で観るって、より一層現実味を帯びて来るかも。
映画と言いましてもTBSのみが録画・録音したドキュメンタリーを編集した108分…本当に50年前にあった、あの伝統の討論会が1本のフィルムに収められている、待ち焦がれたスクープ映像であります。
映像から伝わる緊張感は半端なく、実際のデモ行進や東大安田講堂での闘争シーン、陥落する安田講堂、当時の第3次・佐藤内閣の様子、自衛隊市ヶ谷駐屯地など、主に白黒写真・映像が討論会の冒頭や所々に説明を含むために組み込まれ、編集されておりました。
900番教室には1000名を超える聴衆がぎっしり。
壇上に上がる三島由紀夫。迎える東大全共闘・論客たち。
学生たちが持論を熱く語っている脇で、三島由紀夫の頭の中では学生たちを諭す、あるいは正する言葉の組み立てを必死に考えているであろう姿を見て感動!
また三島由紀夫がマイクを持って話している時は、東大の学生たちはひと言も漏らすまいと聴き入る姿にも謂わば学生らしさの必死さが窺うことが見えて、今・65歳のわたくしから見れば一生懸命で健気にも映ります。
とにかく全員が煙草スパスパで画面が白い!チェーンスモーカーで知られた三島由紀夫はピースを絶え間なく吸っているし、東大きっての最強の論客と言われた芥正彦(あくたまさひこ)もまたヘビースモーカーで、三島と同じピース。
メモ類を一切・手にしない三島由紀夫の記憶力には驚きました。
圧倒的熱量を体感し、ちょっと体がだるいくらいです。
別々の席で鑑賞した友人たちが出口で待っております。
「遅いよ!」
わたくし・一番後ろの席を取ったものですから、順番で言えば遅くなるのは当たり前です。
「これからみんなで食事しようって言ってるんだけど、行く?」
「どこ?」
「どこって…これだけの顔が揃って、然も久しぶりに会ったってのに食べ物で選り好みするわけ?」
「みんな中華が食べたいって言うから銀座アスターか…隨園(ずいえん)別館・京橋店?」
「隨園って、あの新宿の?」
「そっ!北京ダッグが美味しいとこ」
「京橋店、接待で行ったことあるけど高くない?」
「他にもメニューあるわよ」
「そんなのより銀座線にすぐ乗れるところが良い!」
「アスターも隨円も銀座線だわよ」
多数決で決めよう…3対3で決着なし。
で・ゾロゾロと銀座線・三越前駅より銀座駅で下車。地上・中央通りに上がって、何んとなく銀座アスター本店へ。
幹事役がアスター派だったので仕方なし。
隨園に手を挙げた3人で…「今度サ、あの3人に内緒で京橋スクエアガーデンに行こう、ランチで!」
「なんでメニュー見ないうちからビールと餃子頼むのよ!前菜を決めようよ!」
「だけどもサ、動いてる三島由紀夫って市ヶ谷で演説してるのが最後だったじゃない?なんか感動したなぁ~」
「うん。芥正彦とのやり取りでホントに楽しそうに笑ってたでしょ?あんな笑い方するんだ~って感じ」
「あぁ言うのを観ちゃうとサ、活字では伝わらないものを見せつけられるね。文学ってなんだろう?」
「映像がない昔から文字ってあるんだよ。川端康成だって三島由紀夫だって、うんうん唸って言葉を積み重ねたはずだって。もっと昔・紫式部は平仮名で綴ったんだから、日本の文字文化ってスゴイよ。平安期と現代の比較は出来ないけど、三島由紀夫が最後に言ってた熱情。あれは三島の口から出てこその声の魅力だね。耳とハートにビンビン来たわ。活字の持つ力と比べられないけどサ」
「13人のゲストが出てたけど瀬戸内寂聴って必要だった?」
「要らなかったね。だって芥正彦、盾の会や東大全共闘のメンバーの中で異質だもん。作家の平野啓一郎が発する三島愛ってスゴイね」
「論理と思考が交錯する一瞬!面白かったなぁ~」
「三島ってサルトル読み込んでるんだねぇ」
「東大論客たちも三島由紀夫も、とにかく膨大な本を読んでるわ。あれは敵わないわ」
「そうだよ、全部翻訳なしの原書を読んでると思うよ」
「だよねぇ?」
「ってかサ、敵わないのは量じゃないよ。質・レベルの問題だと思うよ!」
ガッチョーン!発言者以外…みんな口と箸が止まった…
熱い感想を言い合っているうちに3皿頼んだ海鮮サラダはあっという間になくなってしまっていたぁ~
春巻きは各自1本の割り当て、百合の蕾が入ったスープもすぐに平らげて…餃子の追加。
東大駒場キャンパス・900番教室は極右と極左のちょうど中立であった奇跡の「解放区」とも言われていました。
招待した世界各国の作家たち、科学者、法曹界の正義という権力を持った人たち、経済学者などの実に淡々とした論評・研究結果を身を乗り出して聴いたものでした。
安田講堂の扉を開けるとき、その幾重にも積み重なった知恵と熱意、努力の思いを感じたりも致しました。
暴力に頼ることなく言葉で相手に伝える…わたくし、しっかり聴くことができたのかな、それを活かした勉学をしてこれたかな…言葉を持ってる人間故の葛藤かなとも思います。
それにしても…このメンバーってよく食べてよくしゃべるわ。
お店の方がそれぞれ取り分けてくれるのですが、最初に盛り分けられた人はすぐに食べ始め最後の人が盛り分けるまでには食べ終わっている始末。全員で同じ料理を頂いた感激・美味しさを共有できない!
「あの1960年代って、私たち14、5歳?あの時代、あの場所、同じ志を持って闘わなかった人たちって、みんな部外者なんだよね」
「最初に芥正彦が肩車して赤ちゃんいたでしょ?7、8ヶ月ぐらい?私、人形かと思ったら芥の娘だって聞いてビックリよ」
「今も現役の演劇人だからね、何かのパフォーマンスかと思っちゃうよね?でも、あの映画で女性が登場したの彼女だけなんだよ。結局は高度成長期のあの時代って政治も文学も男のモンだったんだよ」
人が真面目に意見を言ってるてぇのに…横では海鮮あんかけチャーハンを勝手に頼んでるし!
よくしゃべるとお腹が空くのか、みんなよく食べること!
「あの闘争に加わって逮捕された法学部の学生って国家公務員への道は閉ざされちゃって大学院に進むしかなかったって聞いた。教養学部の学生も然り…民間企業・大手は採らないしね。あのあとの学生たちってどう気持ちを切り替えたのかって、最後にインタビューされてたけど、みんな波乱に満ちた人生だったみたいだね」
「芥正彦を除いてね。彼は東大を除籍されたから、かえって自由になったのかも。今も発するあのエネルギーって剥き出しの生傷みたいで怖いわ」
「それで精神のバランスを保ってるのかな?三島由紀夫は見事に自己完結しちゃったし…でもサ、ある意味・私たち読者って取り残されちゃった気がして、それで今も必死になって三島文学を読んでるんだと思うなぁ」
「ねぇ、最後の締めはやっぱ麻婆豆腐にしよっ!」
「くぅ~美味い。辛い!白いご飯食べたい」
で・またまた勝手に白飯を掻き込んでいる、変な友人ふたり…
「それよりサ、久しぶりに観た公開予定の新作映画の予告編、楽しかったね。観たい映画チェックした?」
「うん。あーたが言ってた7月3日公開、石橋蓮司・主演の『一度も撃ってません』…面白そう!他にない?」
「同じ3日公開予定の『カセットテープダイアリーズ』は?イギリス映画なんだけどブルース・スプリングスティーンの音楽を聴いて人生が変わっちゃったって言う青年の話。実在するパキスタンの移民だった人の回顧録なんだって。あのスーパースター、ブルース・スプリングスティーンよ!これは見逃せないわよ」
「ブルース・スプリングスティーン?懐かしいなぁ~『ボーン・イン・ザ・USA』のアルバム、聴き込んだもん」
そのアルバムに収められた12曲・全曲がヒットチャートに載り、世界中で大ヒットしたアルバムとなりました。
カードに付くポイントが欲しいと言ってカード支払いで済ませてくれた友人よ、ご馳走様でした。
「退職金、お手本のような使い方だね」
「あとで請求書、送るわよ」
この日は午後1番、1日1回の上映時間でしたので銀座アスターで食事を終えて外に出た中央通りは黄昏時でありました。
「コーヒー飲んでかない?」
「賛成」の声が重なり、銀ブラへ。
とにかく、6人・みんな元気で良かった!
長いこと友人たちのおしゃべりにお付き合い下さり、ありがとうございました。