雨音に消え入りそうになっては持ち堪え、かすかにゴトンゴトンと京葉線の走る音が風に乗って聞こえて参ります。
今では何棟も建つマンションの陰になって高架を走る京葉線の赤い車体を目にすることは叶いませんが、このマンションを購入してからしばらく経って開通した京葉線は、その名が示すように東京駅を始発とし、東京湾沿いに走りディズニーランドがある千葉県・舞浜駅を経由し、本線・蘇我駅を終点とする・まさに東京と千葉を行き来する列車となっています。
ベランダ側から聞こえる列車の音は東京駅から数えて4つ目「潮見駅」へと向かっている途中のもと思われます。
東京駅・八丁堀駅、越中島駅は地下となっていますが、そこから地上へと上がって高架駅が続くことになり、あの懐かしいゴトン・ゴトンと車輪がレールを走る音を聞くことができるのです。
静かな土曜日の朝ならではの音でした。
そうそう!みなが寝静まった深夜に聞こえることもあり…遠く空へと走る「銀河鉄道」を思わせる謎めいた摩擦音にドキリとすることもございます。
重~く垂れこめた雨雲の所為か…低気圧がズシッと頭に覆い被さっているようで、思考が停止状態、体が思うように動いてくれません。
こんな雨振りの日はのんびりと過ごしましょう。
「よいしょ!」と声に出したつもりなのに口の中でくぐもってしまったようで、この耳にも届かぬ有り様。
それなのに「はぁ~」のため息は肩ごと波打って大きく部屋中に響きます。
ひとり暮らしともなると…とにかくシャンと背筋を伸ばして置き上がらぬことには何も始まらぬのです。
熱いお茶にしようかな?そうだ!こんな時こそ、ちょっと手間が掛かる美味しいコーヒーを淹れましょう!
さすれば…ほぅら!香りだけ嗅いだだけで少しだけ元気が出てきた気が致します。
足元がスースーするなと思い温度計を見たら20度と低めを指しています。
しまい込んだ厚手の靴下を履けば大丈夫!
今日は茹でた豆を使って温かなスープに炊いてみましょうか。
買い置きの食材の活用にもなるかと思います。
体が温まるようにニンニクと鷹の爪もたっぷりと入れちゃいます。
全部を入れ終わり、弱火にしてちょっとソファに横になろうと思っていると固定電話が鳴りまして「もしもし?」…あれ?声が思うように出て来ません。
コホンと受話器から口元を離して咳をひとつしてみました。
応答のないのを不審に思ったのか、何度も「もしもし?もしもし!」と掛けて来た相手側の声が呼び掛けている様子。
「はい!もしもし聞こえます」…掠れてはいるけど出た!
「あっ、こちら東陽図書館です。いつもご利用ありがとうございます。ご予約された本が2冊・用意できております。19日までのお取り置きとなっています」
「はい、分かりました。わざわざお電話恐縮です。ありがとうございました」
受話器を置いて気が付きました。
「そう言えば…昨日から誰とも声に出して話してないなぁ~独り言も頭の中で済ましてる」
う~ん声帯が衰えちゃうなぁ~「が」じゃなくて「も」だなぁ~コロナウイルスで「不要不急&自粛」がすっかり身についてしまって人とのコミュニケーションをとる機会が少なくなっているのは否めません。
でも・まぁ~何事もぼちぼち・とぼとぼと歩んで行けば、コミュニケーションの方から近づいて来るでしょう。
慌てない・慌てない。
なんだかボンヤリとしていたら豆とトマトが溶け合う美味しそうな匂いがして来ました。
声に出して…「そうだ!豆を煮ていたんだっけ。どれ、味見をしてみようね。出てる出てる!ちゃんと掠れてない声が出てるぅ~」
フタを開けたら、もうそれだけで体が温まっちゃう良い匂いが立って来ます。
箱の半分を「豆のピクルス」にしてみました。
玉ねぎを少々入れてレモンの酸味を活かしたピクルスも上々の出来で、ホンの少し元気が出てきた気が致します。
「お豆って美味しいなぁ~!なぁ~んだ!低気圧で凹んでたわけじゃないんだ!お腹が空いてただけだったのかも!」
雨降りの午後…さて、何して過ごそうかな。
『豆にして返す約束豆の花』
(まめにしてかえすやくそくまめのはな)
岩田由美