貴重なさば缶とは…それは水煮でもなく味噌煮でもなく「味付・醤油味」の日本のさば缶です!
そのさば缶を…「まだ残ってる?」と、朝・いち番で電話が掛かって来ました
美大院生のひとり息子・あきらくんのおっかさん、わたくしの幼馴染みからの図々しい電話でありました。
「なんでうちにさば缶があるの知ってるのよ!」
「この間、『絶メシロード』のビデオ持ってた時、本・借りたじゃない?納戸の本棚の横にサ、缶詰めとか買い置きの食料品がズラーって並んでんのを点検してたら、あったのよ、さば缶・醤油味!まさか食べてないでしょうね?」
「…食べてないとか聞く前にサ、人んちの何を点検してたわけ?」
「賞味期限よ!で、あるの・さば缶?それと、今すぐお米研いで炊いといて…う~ん4合ね」
もう、こんなアホな幼馴染みなんぞは要らんわ!わたくし呆れて返事する気も失せました。
失せたとて…やって来ましたよぉ~
「ご飯、炊けてる?この間ね、ケンミンショー見てたらサ、京都のちらし寿司ってのを紹介してたのね。どんな豪華なちらし寿司が出てくるんだろうって、こう身を乗り出して見てたらよ、さば缶を炒ったのをまぶす地味~なちらし寿司なわけ…でもサ何んとなく食べてみたくなって、あーたんとこにさば缶あんのをパッと閃いちゃったのぉ~自分の記憶力の良さに酔っちゃうね。でね、それって醤油味のさば缶じゃなくちゃダメなのよ」
聞いてるこっちの方が船酔いのような気分であります。
幼馴染みは納戸から勝手にさば缶を持って来まして、プルトップ缶ですからパカッとフタを開けております。
あら…一発で開けちゃいました。先日、ホールトマト缶を開けようとした・わたくし…プルタブだけポロッと取れまして、何んのことはないタダの缶詰めになちゃって、わたくし缶切りでコキコキと開けた記憶が蘇って参りました。
あんなに簡単に開けちゃって…何事も大ざっぱで深く考えない性格ってのは楽チンだよねぇ~と横目で眺めておりました。
「あれ?目ん玉を横に動かしてもグラグラと目まいがしない…治ったのかも!嬉しいぃ!」
「さば缶をフライパンで炒り煮にして水分飛ばして。生しいたけは持って来てあげたわよ、それみじん切りにして甘辛く煮て。錦糸玉子(きんしたまご)…そうだ!あーたの旦那さんにお線香上げなきゃね、今日・23日は月命日だものね、チーン!」
ありがとね…錦糸玉子の中にわたくしの亡き夫の名前がそのまま入っておりまして、それを口にした幼馴染みが単に思い出しただけで、取ってつけたような鉦の音がしておりますわぃ!
「ご飯炊けたら酢飯に仕上げといて…それと紅しょうが、口開けてタッパーに移し替えて。錦糸玉子は出来た?海苔をね短冊に切って湿気ないように冷蔵庫にいれといて。さぁ~て準備はすべて整ったね。熱いコーヒー頼むわ」
「あのサ…言いたかないけども、京都のちらし寿司を作ってるのは解るよ。だけどもサ、あーたがご自宅から持ってきたのは生シイタケと紅しょうがだけだよね?お米からすし酢でしょ?卵に海苔でしょ?その他に調味料…全部、うちのだよね?それにコーヒーだぁ?」
「肝心なの忘れてるよ、さば缶もだよ」
もうホント!呆れて物も言えません。
「美味しい!あーたが淹れるコーヒー、なんか美味しいよね」
「ありがと…」
粗熱を取った酢飯の上にさば缶の炒り煮、酢飯、シイタケの甘辛煮、酢飯にさばの炒り煮と三段ほど敷き詰めながら重ね、最後にギュッと押して錦糸玉子と紅しょうがを散らして出来上がりだとか…
「京都じゃどこの家庭でもちらし寿司って言うとコレらしいのよ。もっと真っ赤な紅しょうがだったけど…色的にはこっちの方が優しい感じがするわ。とにかくサ、味見しながらお昼にしようよ」
「味見って…こんな量があったら夕飯もコレだわ!」
「いや…味見だけにして。あとはうちの夕飯だから…」
「うちのって…持って帰るの?」
「うん。器も貸してね」
「……」
で・お味はと言いますと、これが何んとも懐かしいちらし寿司・と言うよりは関東で言うところの「そぼろ三色弁当」のようであります。
さば缶もひと手間掛けると美味しい一品になるものだなぁ~と思いました。
卵もきちんと薄焼きにしてからの錦糸玉子ですから、見た目も華やかな仕上がりとなります。
「棚にもうひと缶あるから、今度はサ、ひとりで挑戦してみなって!」
わたくし・温厚な性格と言われておりますが…この時ばかりはメラメラッと殺意が湧いてくるのを感じましたね!
「あのサ…頭から湯気が出てるような気がするあっ!今度・お天気になったら、千駄ヶ谷に行かない?あきらが院生の友だちとマンホールの絵を見に行くって言うから連れてってもらおうよ」
あぁ!それ、わたくしも讀賣新聞の紙面に見付け、ぜひとも行ってみたいと思っていました。
東京都がアニメや漫画のキャラクターなどをマンホールにした企画・スタンプラリーが人気を集めているそうで「鉄腕アトム」は千代田区、「ウルトラマン」は世田谷区、「のらくろ」は北区とそれぞれのファンにとっては見逃せぬイベントではないでしょうか?
「あきらは美大生として見に行くの?なんで千駄ヶ谷なん?」
「それがサ、あーた!将棋会館があるのは、どこ?」
「…渋谷区千駄ヶ谷!」
「そうよ!『3月のライオン』の桐山零くんと二階堂くん、それに三月町の三姉妹の絵がマンホールに描かれてるんだって!行かない?」
「行くよぉ~桐山零くんに会いに行くよぉ~いつよ?」
「あきらと友だちの予定に合わせなくちゃいけないけど、何しろ雨降りじゃダメらしいのよ、ビシャビシャで」
「でもサ、なるべく早くにしてよ」
「だ・から、この京都のちらし寿司でご機嫌を取って連れてってもらう…ねっ!」
「解ったような解らんような…?まぁ~よろしく頼むわ」
おばさん・ふたりだけでマンホールを探して歩くのも楽しいとは思いますが、わたくしもあきらくんのおっかさんも方向音痴なものですから、ここは「老いては子に従え」になぞりまして、お供に加えてもらいましょう!
お楽しみがひとつ・増えました!