2015年…平成27年は、わたくしにとって、その1日1日が愛おしく、そして哀しく切ない。決して忘れることのない年となりました。
希望を絶たれた夫の闘病とは言え「もしかしたら…」と暗雲立ち込める雲間に見える陽の光にさえ手を合わせたものでした。
今朝、雨上がりの空に現れた金色に光る雲を目にし、その時の必死であった気持ちを思い出し、胸がいっぱいになってしまいました。
その2015年・5月に公開された映画『あん』…先日亡くなった樹木希林さんを偲んで、木場ギャザリアにある「109シネマズ」で再上映していると知り、観に行って参りました
「カンヌ国際映画祭『ある視点』部門オープニング作品として出品した映画は、ハンセン病を取り上げた思いテーマではあるのですが、前半の樹木希林さんが持つ、何を演じていても観ているこちら側に押し付けるでもなく、媚びることもなく、軽やかな演技で物語に引き込まれてしまいます
物語は桜・満開の春に、元ハンセン病で長い間隔離されていた老女・徳江さんが、町の小さなどら焼き屋「どら春」の店長・千太郎さんに何んとか雇って貰えないかと、何度も店を訪ねるところから始まります
徳江さんの作る「粒あん」の美味しさに感動した店長さんは、両手が不自由な徳江さんを助けながら、その作り方を教わっていきます
それまで業務用の「あん」を買っていた「どら春」のどら焼きは、徳江さんの粒あんを挟んで売っていくうちに「美味しい!」との評判で、いつしか開店前から行列が出来るまでになりました
ところが…徳江さんが「ライ病・ハンセン病」であったと言うことが広まり、店は開店休業になって、徳江さんは辞めざるを得ぬ状況に追い込まれてしまいます
河瀬直美監督は今まで、どちらかと言うと素人重視のキャスティングが多かったのですが、今回は演技派の俳優、永瀬正敏さん、市原悦子さん、そして樹木希林さんを揃え、樹木希林さんの孫である内田伽羅(うちだきゃら)さんを迎えてメガホンを握りました
やがて徳江さんは高齢もあって肺炎で亡くなってしまうのですが、ハンセン病への差別を訴えるテーマだとすると、その終わり方が残念でなりません。
今の日本ではとっくに安全制圧されている病気であること、感染力が非常に弱いこと、もし罹ったとしても治療法が確立していることなどをきちんと伝えた方が良かったのではと思います。
それを伝えられる演技力を持っている俳優さんたちであったのに…と思ってしまいます。
公開から3年…「樹木希林 最後の主演作」となってしまった作品ですが、観ることが叶いました
それにしましても、徳江さんが作る「粒あん」のどら焼き、食べてみたかったなぁ~
9月のお彼岸を前に樹木希林さんの訃報を聞きました。
この『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』で樹木希林さんに会えるのを楽しみにしておりました
銀座・和光の裏にある「シネスィッチ」では、公開された10月13日・その日から立ち見が出るほどの満員で、座席が確保できた夕方遅くの上映時間に友人とふたりして観に行きましてございます
「この時間で、しかもおばさんだけで満席なんて凄いね夕飯の支度、どうしちゃったんだろね」
「みんな、あーたみたいな後家さんばっかりなんじゃないの?」
「あのね、これでもあちしはね、巷(ちまた)では美しすぎる未亡人って言われてんのよ!そう言うあーたは何よ!旦那をフンドシ一丁で追い出しちゃったくせにっ」
「巷ってどこの巷よっお股じゃないの!こっちはね、フンドシ一丁も剥ぎ取っておっぽり出してやったわぃ」
わたくしたち・ふたり、これから日本の伝統である「茶道」の映画を観る資格が果たしてあるのでしょうか
『日日是好日』は、茶道が主役の映画であります
舞台となっているのは古民家を思わせる一軒家の茶室で繰り広げられます
江ノ電が突然出て来まして、鎌倉の海が映し出され…あぁ懐かしいと思わず身を乗り出して魅入ってしまいました
大学生の典子は就職活動に励んでいる友人たちに取り残され、自分は何をしたいのか分からぬまま悶々としています。
そこへ母親が近所でも評判のお茶の先生・武田先生(樹木希林)の所へ習いに行ったらどうかと提案します…渋る典子に従姉妹である美智子が習いに行きたいと申し出て、ふたりはドキドキと武田先生のお教室へ通い始めることになります
その日から典子だけが24年間、お茶に支えられ成熟した大人へと導かれて行きます
このあたりの場面は微笑ましく、黒木華(はる)さんや多部未華子さん演じる生徒役も初々しく場内はクスクスと笑い声が聞こえるほどです
袱紗(ふくさ)のさばき方に始まって、柄杓の使い方、茶室への入り方・歩き方などなど…洋室に慣れてしまったわたくしなど、とうの昔に忘れてしまったお作法が蘇って参ります
「重いものは軽やかに、軽いものは重々しく…」武田先生が仰ることは、学校で習った道徳の時間を思い出させてくれました
こちらの映画も若いながらも演技派として実力を認められている黒木さんと多部さんが細やかなお茶の世界に身を委ねて演じています
季節ごとに出される茶菓も、とっても美味しそうさすがに「どら焼き」は登場しませんでしたが…
「ちょっと遅くなっちゃったけど、お抹茶飲みに行こうよ」
「やっぱ!虎屋だよね?」
ふたりしてお抹茶に季節の和菓子・薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)「山路の菊」を注文致しました
「この間ね、樹木希林・最後の主役って言う『あん』ってのを観に行ったのね!今日の役柄がまったく違うのに、どっちも樹木希林で凄いなぁ~って思っちゃった」
「ずい分前の映画だよね…あれ?『あん』って映画、3、4日前に追悼の意味を込めてBSで放送してたわよ!」
「えーっ!タダで?」
「テレビだもん、タダよ!シニア料金とは言えども1、100円払ってわざわざ観に行ったの?惜しいことしちゃったね」
「ガックンコ」
武田先生の言われた通り、お抹茶の最後はズズッと音を立てて飲み干しました
お抹茶を泡立てる時、お茶碗の右側に三日月を描くように泡を消すのが上手なお点前と聞きました
虎屋さんは全部が泡で覆っていましたが、ふぅ~っと息を吹きかけ、中途半端な沼のような形になってしまい、友人にこう言われてしまいました
「口は達者なのに、なんともまぁ不器用だねぇ~」
「結構なお点前でしたっ!」
お近くで上映していましたら、ぜひご覧下さいませ