2017年・酉年も、残るカレンダーは、あと1枚…本日で11月・霜月も終わりとなりました
12年に1度の「酉年の酉の市」も今日が「三の酉」にあたり、夜が明ければ・いよいよ師走へと突入致します
築地・波除神社の境内に立つ「酉の市」でも縁起物の熊手が売りに出されます
ここ・築地場内市場でマグロの仲卸業を営んでいる、幼馴染みのさわちゃんちでも『商売繁盛・家内安全』を願って毎年、掻っ込め・熊手を買い求めているようであります
「熊手?買ったに決まってんじゃない店に熊手を飾ってなきゃサ、あ~あそこは熊手も買えんほど困ってんだなって思われちゃうじゃない買うのはね一の酉!三の酉まで待ってられるかいってんだぃ」
「あのサ、なんでぇ~『うん、一の酉で買ったよ』って静かに答えられないの?こんなに朝早くにサ、人んちに押しかけてにツバ飛ばして言うことかい」
築地場内市場の商いは、全国から荷が届くのが午前12時を回ってから続々とトラックが到着し、その荷下ろしが済んでからそれぞれの魚の競りが行われます
さわちゃんの旦那は午前2時か3時には競り場に行って、午前5時から、その日の相場でマグロを競り落とします
さわちゃんは午前4時ごろから店で待機し、顧客の注文に応じて配達分と買いに来る客の対応に追われ、朝飯前にひと仕事もふた仕事もこなしております
世間一般の人とは少し時間の感覚が違うのは致し方のないことでありますが、午前6時過ぎの目覚まし時計より早い電話には、正直参ってしまうこともございます
煮切りしょう油に漬けます
「もしもし?まだ寝てんのぉ?ったくぅ~あのね!サク取りした赤身の良いのがあるから、これから配達のついでにちょっくら寄るからサ、煮切りしょう油、作ってといて!センチメンタル・ジャァ~ねぇ」
「センチメンタル・ジャァ~二ィだろがっ切れてるしぃ」
今日は午後からの予定で、朝はゆっくり休めると思ったにぃ~
受話器を持ったまま…瞼がくっ付くぅ~と思ったとたん…寒さでぶるっと体が震え、取りあえずもう1度、あの天国を思わせるベッドに直行することにしました
漬ける時間はお好みで20分から…
「もう朝の7時近いよ!世の中はすでに動いているのだよ・おみえちゃん!ほれ、中トロ・大トロが食べられないあーたのためにサ、赤身をサク取りしといたから…お湯、沸かして!煮切りしょう油は?作り置き?うん、それでもいいよ!マグロの漬け、おせぇて(教えて)あげっから!」
「こんな朝っぱらからマグロの漬けこさえてどうすんの!朝酒する酒がないっ」
「バカこいてんじゃないの!夕方、帰ってから漬け丼にすりゃ、簡単でしょうが」
「あぁ、ありがとぉアライグマ・ラスカル」
「なんだ・それ?助かるってことかい?相変わらず・バカだねぇ」
「センチメンタル・ジャァ~ネェより、はるかに語呂がいいじゃん!」
「ねぇ、そんなことよりもサ、大学3年のおっかさんから連絡あった」
「ううん!あちしもさわちゃんに訊こうと思ってんだわあきらんとこにもないらしいよ、連絡」
「そうかぁ~確か1週間で帰るって言ってたよね?もう・かれこれベトナム行って半月経つよね?悔しいからサ、こっちからメールしないでいるんだわ」
「うん単身赴任は半年って言ってたからサ、大した期間じゃないよねノルウェーの時は旦那の浮気疑惑が持ち上がってサ、大変だったけど、あれは面白かったよねぇ」
「あきらを抱いて泣き崩れてたねぇ商社の単身赴任ってのは絶対に夫婦で行かなきゃダメだね商社マンってのはサ英語が話せる上によ、赴任先の国で最初に覚えるのがくどき文句だってんだから呆れちゃうよぉ今でもそうなのかね」
「今の時代、そんなんで問題起こしたら、即・クビか、地球の裏側に飛ばされちゃうわよ」
「それで…どっかに飛ばされちゃったかもぉ~」
「煮切りしょう油に漬けるとき、キッチンペーパーで全体を包んで漬けると、漬けムラがなくて満遍なく漬かるからね」
「ハイよ!まぁ~あきらも元気でやってるみたいだし…暮れから正月に掛けてベトナム行くって言ってたよ」
「単身赴任ってサ、お金が溜まるらしいからねぇ~あいつ、幾ら給料貰ってんだか知らないけどもサ、日本で貰ってる本俸のほかによ、単身赴任手当ってのが20万は出るらしいのよ!それに奨励金っての?へッ、インセンティブってのそれも貰えて、ハードシップ手当も込みで、現地での家賃に光熱費に交通費、それに帰国旅費代も会社が出してくれるってんだから、現地の通貨支払いって言ったって羨ましいよねぇ今度、なんか美味しいもんでも奢らせようよ」
「さわちゃん・・なんで、そんなに海外の単身赴任に詳しいの」
「料理教室の生徒さんって豊洲に住んでるセレブの奥さんたちじゃない?ほとんどの旦那さん、短期の単身赴任に行ってんだってじゃなかったら、そうそう夜に出て来られないよぉ~」
「半月も行ってりゃ、苦手なパクチ―も克服してんだろうねぇ」
「…もう、放っとこ」
ふたりの意見が合いまして、どんな事実を突きつけられても驚かぬよう…心の準備だけはしておこうと、前向きな考えに落ち着きました
「さてと…残りの配達に行って来るわ!12月の2日ね、料理教室だかんね!土曜日は体、空いてんでしょ今度は『大人のかまぼこ作り』にすっからねかまぼこだよ!あーたの好きなかまぼこっ」
「おぉっ鈴廣さんのすり身だったら、行く」
「もちろん!じゃね」
「うんありがとね!運転、気を付けてよ」
「免許持ってないあーたに言われたかないわ」
さてさて夕方…家に帰るのが楽しみでございました
刃を入れれば、きれいな赤身の色もそのままにグッと生唾が出てきまして酒の肴に数切れ、あとは漬け丼にして頂きました
朝飯前の仕事で、美味しい夕飯を手に入れました